Yellowman

ロケットマンのYellowmanのレビュー・感想・評価

ロケットマン(2019年製作の映画)
4.3
ハグしてくれる?

エルトン・ジョン。自分の中ではド派手な衣装着てた若い頃は、何かの写真集とかで、見ていて、リアルタイムだとライオン・キングのころなのかな。その頃は、見た目も落ち着いていて、ゲイでではある事を隠さず
活動してるポップスターみたいなイメージ。
それが、90年代あたりだと思う。
それから、月日は、流れて、YouTube や音楽もサブスクで、聴くようになってからは、
いつのまにか、いろいろ知った気になっていたが、全然知らない事や、曲がたくさん。
ポップスターや、ロックンロールスターの伝記映画は、大好物なんだが、待てよ、エルトン・ジョン生きてるのに作るのかーと思った公開当時。3年かかって今回初見。まず構成が上手いなと。ミュージカルの形を取っているのが大正解。特筆すべきは、タロン・エガートンの歌唱力。(これは本人の歌唱のみのサントラ、すぐにダウンロードした)勿論、エルトンに寄せて、頭薄くしたり、増量したりして、見た目の70年代のエルトンの再現度も素晴らしいし、派手な衣装とシルエットだけだと、ライブシーンなんか、数フレームだけ本物が混ざってない?みたいになったけど(笑)とにかく歌うシーンが素晴らしい。特に「Your Song 」作るシーンがまだピュアなエルトンが自宅で、試し試しにピアノで、つま弾いて歌い出すと、その時のバーニーの表情とお婆ちゃんがそっと、ピアノある部屋のソファに腰を下ろす所がいい。あの瞬間で、当時の事務所の社長が云う「老人が口笛吹けるような曲作れ」というのをクリアした気がした。中盤のハイライトとしての「Rocketman」は、歌われる歌詞の世界と映像と演者のパフォーマンスの融合性がもはや、ミュージカルというよりは、崇高なオペラを観させられているような気分になる。
そして、この映画の肝とも言うべき、過剰なまでのドラッグ、セックスに溺れて行くエルトン。こればかりは、他のアーティスト映画観てても、謎なのだが、なんですぐに捕まらないの?プッシャーがエルトンの周りにゴロゴロしてたような状態でしょ。特に60年代後半から70年代というのは、ドラッグで、命を落とすアーティストが結構いたから、法的な態度が曖昧だったんだろうと思う。
極度の多忙と常にシラフじゃない所を如実に描いているのが「Bennie and the Jets」のライブ前で、「ここは、オーストラリア?
N.Y?スウィンドン?」なんてMCをしてる状態で、もうダメかなと周囲の関係者は思った筈。その後のエピソードで印象に残ったのは、後に結婚する女性レコーディングエンジニアからの言葉「あなたの音楽は、とても率直で正直でウソがない。それって、時に孤独よね。」ここのシーンがゾクっとした。あまりにも的を得ているので。そりゃそうだ、エルトンは、歌詞をバーニーや、他の作家に任せている分、誰かが紡いだ世界にインスピレーションを沸き立たせ、ある意味無防備に、メロディを起こして、構築させる。ボブ・ディランのようなシンガーソングライターとは、まるで違う。日本でも、岡村靖幸がかつて、90年代アタマから、リリースが5年ぶりになってしまった事についての言及で、語ったのは、「いい詞が書けなかったから」と答えていたのを思い出すが、同じ身を削る作業としても、表現の具合が違うのは、確かだ。
歌詞に責任を持って唄うロックンロールアーティストは少なくない。かと言ってエルトンも相当身を削っているとは思うが。

で、この映画に頻繁に出て来る”孤独”というワード。ネタバレになるが、冒頭の幼少期に父に「ハグして」と言って、「甘えるな」と一喝された事から、繊細なレジー少年からエルトン・ジョンというキャラクターを演じながらも、ずっとインナーチャイルドのまま、歳を重ねて、クライマックスの幼き自分からの「ハグしてよ」と言われ、ハグした事によって、幼き自分のトラウマから解放されたエルトン。
制作総指揮にエルトン本人がクレジットされているのだから、本人も納得の事実に基づいたファンタジーらしい結末では、ないだろうか。
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