あらた

ロケットマンのあらたのレビュー・感想・評価

ロケットマン(2019年製作の映画)
4.3
子供の頃の私にとってエルトン・ジョンは不思議な存在だった。珍妙な格好をした中世的な小太りおじさん。なぜこの人がスーパースターなのか、疑問に思っていた。
この映画でその疑問への2つの答えに接したような気がする。

一つ目は、天才性だ。劇中で使われる曲の魅力が映画全体を牽引している。歌唱シーンになった途端、劇中のエモーションが一気に高まり、正直、映画が音楽に食われていると感じたほど。
また、こうした創作者の評伝ではよくある、創作の苦しみ、生みの苦しみがほぼ描かれないというのも驚異的なことだ。
劇中でエルトン・ジョンが苦しむのは、冷酷な親、自分を利用するだけのマネージャー、そして自身のセクシャリティだけ、つまり総じて“愛”の問題だけだ。

二つ目は、人工的な衣装と裏腹の人間臭さだ。ストーリーが進み、スターになったジョンが着飾れば着飾るほど、むしろ心の痛みが生々しく強調されていくよう感じた。例えて言うならば、過度にきらびやかな衣装は傷口に幾重にも巻かれた包帯のようだった。この衣装=包帯という考えに基づくと、派手な衣装を身にまといセラピーに来たジョンが、過去を回想しながら少しずつ衣装を脱いでいくという話の構造は(分かり易すぎるかもしれないが)まさにこの話が癒しの物語であることを示しており、感動的だ。

ともかくエルトン・ジョンの魅力に気づかされた時点でこの映画の勝ち!俺完敗!

最後に良かった場面を2つ。
セラピールームでの絞り出すような「良くなりたい」。
子供時代の自分の「ハグしてくれる?」へのリアクション。
特に後者は泣くかと思った。
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