タマル

3-4x10月のタマルのレビュー・感想・評価

3-4x10月(1990年製作の映画)
4.0
北野武予習復習その1。
以下、レビュー。


北野映画が嫌いだ。
……なんてことをいちいち書き込んでる時点でお察しなのだが、ホームレスの皿にサッカーボールが突っ込んで以来ずっと「嫌い」なんだからそうとしか言いようがない。
たいへん不本意ながらも北野映画が嫌いだ。

そもそも私はビートたけしの世代ではない。
『ひょうきん族』も『たけしのANN』も『元気の出るテレビ』も知らない。彼の笑いも、彼の伝説も、彼のマルチセンスも全く存じ上げない。
私が知っているのは、「アンビリーバボー」と叫び肩をクイクイッと上げる金髪教養おじさんであった。

しかしながら、それは北野武という映画監督をニュートラルに捉えられたという点で良かったのかもしれない。
予備知識(思い入れ)無しに『その男〜』を初めて観たときの嫌悪感はとにかく酷かった。よもや武という男は人でなしではないかとすら思ったほどである。

具体的には『その男〜』冒頭の
ホームレスを暴行するガキども、家に上がり込んでガキを暴行する我妻という2つのシーンである。
高校生の私にとって、この二つは自分の最悪の未来だった。
前者は「他者」という無神経な集団に、いつでも蹂躙されうる「私」の存在
後者は唯一「私」に戻れる自宅ですら、その気になればいつでも害されるのだという事実を示しており
将来について悩む時期にこんなもん観せられれば(自分で観た)、嫌悪感を抱くのも当然である。

わざわざ最悪な想像を映像化するなんて絶対ろくなやつじゃねえなと思いつつ、引き込まれるままに最後まで観ていた。
要は、不快ながらもめちゃくちゃ面白かったのである。
イメージとしては、解毒してないフグを食ったような感じだった。もちろん食べたことはないが。
とにかく、そう毒フグばっか食ってられんわとそれ以来北野映画を避けてきたのだった。

と、すごく前置きが長くなったので、避けていた北野映画を観た動機は『アウトレイジ』と書くに留める。

以下は本当のレビューに移るが、本作はやっぱり嫌な映画だった。
いや、だと思っていた。少なくともラスト20分までは嫌だと思っていた。
結論、この映画は私の監督北野武像を大きく変えた。もちろん、いい意味で。

この映画の頭は人物のアップで始まるのは『その男〜』と同様。
しかし、アップになった男が本作の中心人物(主役?)であるという点で大きく異なる。
この男が、そうとうアホである。
草野球チームに入っているのに野球のルールを知らないのだ。
知らないなら聞けばいいのにそれもしない。
人から言われたことをするだけで自分で考えたりはしない。何も言われていない時はボーッとしている。
ただ、非常に感情の起伏は激しいため、急にキレたりとかするメンドい奴である。
この点をもって英訳を『Boilng Point』としたのではないかと思われる。

さて、この映画はそのアホ男を中心として進行する。
アホ男の周辺では信じられない暴力が起こり、アホ男もその暴力の渦中へ身を投じるのだが、映画が大詰めに差し掛かると全体の雰囲気が一気にコメディへと転倒していく。そして最終的にはアホ男に対していかにもアホくさいオチがついて映画が終わってしまう。このバランスは明らかにおかしい。
前述した通り、この映画は嫌な映画である。生々しい暴力・居心地悪い緊張感に全体が支配されており、和やかな野球のシーンですらバットが常に死の雰囲気を湛えている。ラストは『その男〜』の様な救いない展開が相応しいのである。
こんなアホなオチにするなら今までの展開はなんだったよ!!

なぜこの映画のラストはこんなにまぬけなのだろう?
「まぬけ」というワードから、私はふと、あの迷作ゲームを思い出していた。

ご存知だろうか?
ファミコン時代の究極のクソゲー『たけしの挑戦状』のことを。

私とこのクソゲーとの出会いは省略する。
このゲームと『3-4X10月』との類似点もあえて言及しない。
私はゲームのラストに出てくるメッセージに注目したいのだ。

「こんな け''ーむに まし''に なっちゃって と''うするの」

『たけしの挑戦状』はたけしのアイディアを際限なくぶち込んだ「たけしゲー」である。
このゲームにたけしの「作品」に対するスタンスの一端を見て取れるのではないだろうか。
事実上の初監督作である本作にも、あるいは上述した様な精神があったのではないか。
映画を通じて、再三意識に刷り込んできた「暴力の拘束性」を自ら馬鹿らしいもの・まぬけなものへと帰結していったのではないか。
その極めてまぬけな暴力が潜在的に持つ寂しさ・侘しさを画面に切り取ろうとしたのではないか。

そんな考えに至った時、今まで目を向けられなかった暴力嫌悪の先の清濁の感慨を少し理解できた気がした。

「こんな えいか''に まし''に なっちゃって と''うするの」

オススメです。
タマル

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