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斬、のamのレビュー・感想・評価

斬、(2018年製作の映画)
3.9
「鉄男」で肉体そのものが"鉄"という異物に侵食されていく不気味さを描いていたように、塚本晋也監督作品からは常に人の"肉体性"に対する強い拘りが伝わってくる。

肉体は撃たれたり斬られたり破壊されたら死ぬ。当たり前の事だが、それを「当たり前じゃん」と流してしまえるのは我々にとってそれが"他人事"だからだ。
当事者として、人殺しの一線を越える境地とは。自分の手で人の命を取る感触は。人間を肉塊へと変えてしまう感触は。
肉体が壊れるグロテスクさに真正面から向き合い、その工程が持つ本来の生々しさ、不気味さを突きつけてくれるのが前作「野火」であり「斬、」であるように思う。
「人を斬ること」を本当の意味で理解していたら、杢之進くらいの拒否反応がある方が正常なんだろう。
武士の一分の為に人を斬る澤村、やられたらやり返す精神の一環で殺しも厭わないゴロツキ達、「仇を取って」と人斬りを促すゆうといった登場人物の中で、唯一殺しに対する"正常"な拒絶感を貫いていたはずの杢之進が、最終的には"向こう側"に行ってしまうラストがなんとも遣る瀬無い。
竹とんぼで遊んで笑い合えるような素朴な人達を"殺し合い"の狂気に駆り立てるものは、使命感なのか、憎しみなのか、刀そのものなのか。

"刃物で人間を殺す"という事の意味を生々しく描写するとしたら、「プライベート・ライアン」でドイツ兵に刺殺されるシーンみたいに、まさに命を取る瞬間の切迫感をもっとクローズアップしてほしかったとも思う。


舞台設定も登場人物も極めて限定されていて、話のスケールとしても小さいので全体的に予想より地味な印象ではあったが、だからこそ役者陣の滲み出るような存在感に魅入ってしまった。
池松壮亮の竹刀を振るう身のこなし、柔らかいけど影のある物腰が最高。
ヤンチャな弟に気を揉みながらブーたれる蒼井優可愛い。
「野火」の時同様、中村達也のヒリつくような危ういオーラがたまらない。


杢之進とゆうが壁越しに触れ合う描写は私個人の映画鑑賞史に残る名エロシーンだった。
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