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アルキメデスの大戦のKuutaのレビュー・感想・評価

アルキメデスの大戦(2019年製作の映画)
3.6
山崎貴と向き合う④

対米開戦に突き進んだ非合理的な思考、機能不全な組織の象徴としての戦艦大和の建造計画を、若き数学者が阻止しようとする。

「最も合理的であるべき組織の非合理な慣習に計算で立ち向かう」展開は、2017年公開の「ドリーム」とよく似ている。

組織のしがらみや軍人の策略に足を引っ張られながら、愚直に信念を貫こうとする池井戸潤的なストーリーは明快だ。その上での最後の一捻りが秀逸で、「大和は作られる」という非合理な運命に、数学者が自ら歩み寄ることになる。

・特筆すべきは冒頭の大和の沈没シーンだ。凄惨な死、一人一人救助する米軍との圧倒的国力差、沈む大和から上がる黒いキノコ雲。逃れられない絶望をしっかり印象付けている。

・三丁目の夕日シリーズを3本見て分かったのは、山崎貴は「悪夢的箱庭」を撮ることに長けた監督だということだ。

三丁目の夕日では、そのノリで「美しい昭和」を語ろうとするから欺瞞を感じるのだが、戦争に突き進む日本が舞台の今作は、彼の映像スタイルがようやくハマったと言えるのではないか。

序盤から続く朝ドラみたいなダサい絵作り、説明的な台詞回し、ゆるいカメラ位置、起伏に欠く展開といったダメなたかしのトレードマークが、待ち受ける絶望への不気味な前振りとして、良い方向に作用している。好意的に捉えすぎかもしれないが、私には今作が、当時の日本を「悪夢の箱庭」として再構築する企画に見えた。これだよこれ、と思った。
(全部セリフにする悪癖が「上官への簡潔な報告」として物語上違和感なく収まっている場面があり、ちょっと驚いた)

・数値改ざんに開き直る「だからどうした」は国の終わりの始まり。ほぼ起こり得ない大波にも対応できる必要がある。現代性をうまくまぶしているが、この映画を撮りながらどういう気持ちで山崎貴は東京五輪の開会式の準備をしていたのだろうか。

・数学者は戦艦を「人間が作った美しき怪物」と呼ぶ。大和は「日本の依代」であり、日本人の身代わりとして太平洋に沈むのだと語られる。ゴジラが撮りたくてたまらない感じが伝わってくる。

今作で大和を単なるロマンの塊ではなく、「日本が日本である限り不可避な絶望」として描いたスタンスは完全にゴジラ的なものだし、上述した箱庭的悪夢としてのドラマ演出は、ゴジラマイナスワンの時代設定でも十分に有効なのではないか。新作への期待が大いに高まった一本だった。
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