akrutm

ふたりの女王 メアリーとエリザベスのakrutmのレビュー・感想・評価

3.2
16世紀のスコットランド・イングランドを舞台に、スコットランド女王メアリー・スチュアートの半生を描いた、ジョージー・ルーク監督の歴史ドラマ映画。ジョン・ガイによるメアリー女王の伝記が原作となっているが、下記で述べるように、本映画ではかなり脚色されているようである。また、ふたりの女王が主人公であるかのような邦題はミスリーディングであり、もちろんエリザベス1世は出てくるけれども、あくまでもメアリー・スチュアートを主人公として描いた作品である。

先月のエリザベス2世即位70周年に合わせて放送されたBBCのドキュメンタリー番組で、エリザベス1世と2世の共通点のひとつとして、メアリー女王とダイアナ妃が対比されて描かれていたのに興味を持って、本作を鑑賞。メアリーを演じたシアーシャ・ローナンの、心情の動きを細かい表情だけで表現する演技は秀逸であるが、それ以外の描き方に歴史ドラマとしては受け入れがたい点がいくつかあるので、全体的にあまり良い映画とは思えなかった。

まずは、かなりの部分で歴史的事実に反した内容になっているようで、個人的にはそれほど気にならなかった(というか、史実に詳しくないので気づかないというのが正直なところ)が、イギリスの人々にとっては許しがたいみたいで、本作のレビューは概して低評価になっている。実際にエリザベスとメアリーは一度も対面で会っていないというのが定説である。結末に至るまでの描写が浅いのは、さすがに気になった。

でも個人的に問題だと思ったのは、人種やジェンダーに関する多様性を満たそうとするあまり、無理やりの事実改変が目に余る点である。16世紀の時代に、王女の側近や侍女として黒人男性やアジア系女性がいるはずがない。メアリーの2番目の夫となったダーンリー卿ヘンリーや、メアリーの不倫相手とされるデイヴィッド・リッチオ(本映画ではなぜか夫の不倫相手になってしまう)は男色ではない。こういう改変をするのであれば完全なパロディとして行うべきで、まともな歴史映画の装いのままでこういう改悪を行うのは、過度な平等主義へのくだらない忖度に過ぎない。また、25年分の出来事を描いているにも関わらず、登場人物たちを全く老けさせない演出も、時間感覚を全然感じさせないおとぎ話のようである。

最後に、New York Times の批評での一言が、本映画の出来をよく表している。
「クンニによって国家の運命が(部分的に)決まったことに、スコットランドの歴史を学ぶ学生たちも、あらびっくり。」
akrutm

akrutm