大島育宙

岬の兄妹の大島育宙のレビュー・感想・評価

岬の兄妹(2018年製作の映画)
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『さがす』を観る機会に再見。

これでもかと畳みかける苦渋の決断の連打に圧倒される。敢えて不謹慎な言い方をすれば、不幸エンタメ(不幸ポルノ)としてのサービス精神が過多である。

初めてのまとまった稼ぎでマクドナルドで無駄買いをし、暴食しながら窓の段ボールを乱暴に剥がして太陽光を取り込むシーンで落涙しかけた。

この映画を観た誰もが語りたくなる(語りたくならない)プールでの人糞作戦は、新井英樹漫画のキャラクターのような野生的な生命力に震えた。本当に新井英樹の画風に見えた。
あのシーンで実は素晴らしいのは、それまでに妹の自慰見ていた幼少期のフラッシュバックのシーンがフリになっているため、プールでいじめられている高校生が主人公ではないか?回想シーンではないか?と無意識に錯覚させるところ。パワーの映画のようでいて技巧的。


強いて気になるのは2点。

①「障害のある人/セックスワーカー」を「聖なる存在」と位置付け、その痛みや被虐をウォッシュする描き方はやや前近代的すぎるのでは?と感じる場面もあった。もちろん、セックスワーカーが妻を亡くした独身高齢者や身体に障害のある人を癒すことはあるだろう。が、そこで彼女が無償の歓びを与える聖女のように描かれていたのは見ていて苦しかった。兄が勝手に結婚を申し込むくだりで、やや現実に目配せが向いた気がする。

②妹が性行為を楽しむ時があるのはわかるが、どんな相手とも楽しんで積極的なのはやはり「娼婦=聖女」のステレオタイプではなかろうか?彼女にも恋愛対象/性欲対象の趣味嗜好がある、意思決定の幅があることにはできなかったのだろうか?