かなり悪いオヤジ

馬上の二人のかなり悪いオヤジのレビュー・感想・評価

馬上の二人(1961年製作の映画)
3.5
数あるジョン・フォード作品の中でも異色中の異色作である。なにせ、派手な撃ち合いも、コマ落としで馬の走るスピードを速くみせるチェイスシーンも、みんなハッピーのハリウッド・エンディングも全て排除しているのだから。ネイティブ・インディアンによる子供拉致誘拐事件という、アメリカ開拓史を語る上で避けては通れない暗部に、巨匠ジョン・フォードは思い切りスポットライトを当てているのだ。

ここもと、マーティン・スコセッシ等の重鎮映画監督が、ネイティブに働いた白人の非道行為の数々をようやく“歴史”として語りだしたハリウッド。その先駆けといってもいい本作は1961年に公開されている。主役の2人ジェームス・スチュアートは当時52歳、リチャード・ウィドマークは48歳と、男盛りをとうに過ぎた老けオヤジどもが、拉致された白人と武器を交換するためネイティブと考証する地味ーな映画なのである。

“アメリカの良心”にもたとえられる善人役の多いジェームズ・スチュアートに金に汚い保安官役を、逆に悪役が割りと多いリチャード・ウィドマークに無欲な軍人役を、わざわざキャスティングしている。善の中にも悪があり、悪の中にも善がある。知恵の実をアダムとイブが食べて以来、人間が背負い続けてきた原罪をあからさまに暴き出した問題作といってもよいだろう。

このような映画をみているとつい、パレスチナによるイスラエル拉致誘拐事件に端を発するイスラエルの軍事侵攻に重なって見えてしょうがないのだが、御覧になった皆さんはどんな感想をお持ちになったのだろう。スチュアート扮する拉致誘拐事件に精通している保安官が、ひたすらエモに訴え人質奪還を懇願してくる開拓者たちにこんな台詞をいう。「コマンチに洗脳されている人質を今更連れ戻してどうなる?奴らは戻ってきた途端白人のあんたをレイプするぞ!」

幼児の時に誘拐された男の子は連れ戻された途端、頭がおかしくなっていた資産家の奥さん(実母)を刺殺、その報復に開拓民たちから吊し首にされてしまう。コマンチ幹部の妻におさまっていた女性は、開拓民の妻たちから白い目で見られ、差別を嫌いカリフォルニアへと保安官と共に逃亡をはかるのである。その根本原因、白人入植者による蛮行については一切触れていない、例によってフォードならではの“静かなる”演出が光っているのだ。

注目すべきは、保安官との人質明け渡し考証に渋々応じるコマンチ酋長クアナ(ヘンリー・ブランドン)の存在である。なぜか英語ペラペラな酋長が違和感バリバリだったのだがこのクアナ・クーパー、コマンチ最後の指導者として白人との調停にあたった実在の人物だったらしい。名前の通り母親は白人、本人もブルーアイズの持ち主だったとか。劇中毛皮で銃弾が防げるわけがないとちゃんと認識しているリアリスト、セオドア・ルーズベルト大統領とも親交があったという。

このクアナが白人社会に飼い慣らされた“アラビアのロレンス”だとすれば、保安官のガスリーや軍人のジムはコマンチに肩入れしすぎる裏切り者なのだろうか。いずれにしてもどちらかの正義はどちらかにとっての悪になるわけで、解決策など見つかるはずもないのである。最後はコマンチ族よろしく雄叫びをあげながら駅馬車を南へと走らせるガスリー。ネイティブとの間に平和協定が締結され、懐柔された者同士の考証に、最早自分の居場所がないことを覚った上での行動なのかもしれない。