くわまんG

この世界の(さらにいくつもの)片隅にのくわまんGのレビュー・感想・評価

4.0
重い重い1ページの追加でしたねぇ。戦禍と同じくらい、すずさんの人生を揺さぶったリンさんは、これからも美しいままですが、遺した後味はあまりにも苦いものとなりました。

みどころ:
報われても悲しい後味
より容赦無くなった演出
原作に寄り添った良脚本
のんとコトリンゴの配役
声優の演技が素晴らしい
親しみやすさは失われた
ほぼ戦争映画になった

あらすじ:
おっちょこちょいでのんびり屋な少女だったすずさんは、好きな人がいたけれど19歳で遠くへ嫁入り。慣れない環境で一人がんばっていると、嫁ぎ先からも大事にされるようになって、大変ながらも幸せな日々を送っていた。
そんな1945年、戦禍が日常を蝕み始める。そしてもうひとつ、すずさんの毎日に大きな影を落とすものが……。

前作と違って、これは良し悪し、戦争映画に寄ったんじゃないでしょうか。“すずさんののほほん”なんて焼石に水で、“すずさんの目”を通したって世界は悲惨過ぎて、すずさんがリンさんを救おうが救われようが、気分はどんよりでしたよ。ストーリーは原作と同じなのに、原作読破時のあの雨上がりに差す陽光のような温かみは無く、帰路の足取りは鉛のようでしたね。

なぜこんなにも味わいが違うのかなぁと考えていたのですが、もしかするとこうなったのは、片渕監督が男性だったからなのかもしれません。原作の視点は、もっと女性らしく現実的で、現代と同じように淡々と日常が流れます。そんな中迎えるクライマックスだからこそ、すずさんが“どこにでも宿る愛”を見出だして救われる局面で泣かされました。

ですが片渕監督は「どこにでも宿る愛」より「戦争は悪」を強く押し出したように感じました。主観的な魂の浄化ではなく、客観的な戦争批判で結んだのです。男の説教くささが滲み出たんだと思います。決して悪い脚色だとは思いませんし、作品自体も素晴らしいんですが、原作ラスト数ページの感動が映像化されると思っていた身としては、ガックリ来ましたね。

僕は前作→原作→本作の順に触れましたが、『この世界の片隅に』未体験の方に薦めるなら、やっぱり原作を推すと思います。なぜなら戦時中でなくとも全うな人生は超過酷で、どうにも辛い時の処方箋として、原作のすずさんはうってつけだったからです。いや十分素晴らしいんですけどね、本作から入った人はどう感じられるんでしょうねぇ。