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mid90s ミッドナインティーズのnetfilmsのレビュー・感想・評価

4.2
 小柄な少年スティーヴィーは少し年の離れた兄と体格に差があり、何をしてもまったく歯が立たない。13歳の少年が見つめるのは、兄の部屋にキレイに整理整頓された90年代文化の山に他ならない。アルファベット順に並べられたHIP HOPのCD、そして行列に並んで手に入れたであろうAIR JORDAN5。FAT JOEの名前をメモる少年の心には、兄の歩いてきた道筋を大股に歩くように見えて、実はまったく違う世界を手に入れることになる。

 ラリー・クラークとハーモニー・コリンの『KIDS』に質感が似ているように見えるが、まったく趣が違う。『KIDS』において彼らのコミュニティは既に最初から大きな基盤としてあり、地続きの自堕落な日常は目が回るようにぐるぐると続いていたが、13歳のスティーヴィーは当初、彼らと何も関係ないところから派生し、その頑固で閉鎖的にさえ見えるコミュニティに一人で入り込む。ジョナ・ヒルはその過程を余すところなく丁寧に盛り込む。自転車で街に向かうところで、今では90年代的な鎖を纏ったアイコンであるスケートボードを楽しむ4,5人の集団に出会った少年は、意を決してスケート・ショップ『morter』のドアをくぐるのだ。

 SNSが跋扈する現代が境界線のない非常に曖昧な世界だとすれば、90年代のLAカルチャーは現実のコミュニティが維持された最後の時代と云えよう。人々は自分なりのカッコ良さを追い求めたが、スケートボードやグランジ、HIP HOPの持つ「COOLさ」はどこか地続きでボーダレスだった。E Ruleの『Listen Up』とDaniel Johnstonの『Casper』、OCの『Time's Up』とSebadohの『Spoiled』が流れた『Kids』のように、今作でもSouls of Mischiefの『93 'Til Infinity』やPixiesの『Wave of Mutilation (U.K. Surf)』、BIG Lの『Put It On』やNirvanaの『Where Did You Sleep Last Night』は主人公たちのサウンドトラックとして、フラットに並べられる。とりわけ西海岸のスケート・カルチャーへの尋常ならざるリスペクトとして、ハイエロ一派の大将であるDel the Funky Homosapienの出演は象徴的な事件となる。

 翻ってスティーヴィーの兄イアンに目をやるとすれば、彼は弟よりも数倍、自分たちと違う黒人やヒスパニックの文化を敬愛していたが、現実に彼らと同じ空気を吸う勇気など一つもなかった。そのことはファックシットがイアンに路上でケンカを売る場面にも明らかだろう。兄はその時、自分の弟がコミュニティの一員として馴染んでいることに、侮蔑にも悔しさにも似た表情を見せる。NASの2ndのTシャツを着ながら、弟のような大胆さを持ち合わせなかった兄はその時、負け犬として静かに震える。ジェネレーションX世代でシングル・マザーの子供で、典型的なホワイト・トラッシュだった思春期の兄の背中には、弟の姿がひたすら遠くに見えるのである。

 車幅の広いLAの四車線の真ん中を、夕焼けの中スティーヴィーがゆっくりと滑り降りる。この場面の美しさが息を呑む。父親のいないスティーヴィーにとって、レイやファックシットたちのスケーター・コミュニティは、実の家族以上の疑似家族だった。レイが新しいボードをスティーヴィーに授ける場面は、義父からの通過儀礼に他ならない。血族が異質な文化を排除しようとした矢先、心底危険な事態に襲われた主人公は、ストリートの教え(掟)に助けられる。真の自由を手にせんとするコートハウスに集いし仲間たちは、ヒップホップとグランジの境目や、スーパー16mmとHi8カメラの境界線を、ストリートの流儀でいとも簡単に乗り越える。全体に焦点が合っている物語は、少し引きで見つめると、一人一人があまりにも愛おしい。クールでありつつも、若者たちの陰影をしっかり彫り込んだ傑作である。
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