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mid90s ミッドナインティーズのqのネタバレレビュー・内容・結末

4.5

このレビューはネタバレを含みます

2021年18本目(映画館2本目)

かなりの期待で観たけれど、まったく期待を裏切ることなく、最高だった。

見かけだけのスケートやカルチャーの映画じゃない。
あの頃の感情を忘れないための映画。
自分の原点やいまここにいる理由や原点を忘れないための映画だった。


自分がないものを持っているカッコイイ年上やカルチャーへの憧れ、兄へ対する反感と憧れや超えたいと思う気持ち、今の自分を超えて新しいことをはじめる高揚感。
スティービーの気持ちだけじゃない。
イケてる趣味があるのにオタクの域を超えられない地味な兄貴も。弟に暴力を振るうことで自分の存在意義を確かめるかのようなコミュ症具合も昔の母のエピソードで理由がなんとなく明らかになる。弟が自分とは違う世界を切り開いたことを知った時の焦燥感や苛立ち。
レイのスケートに対する本気の思いとFUCKSHITに対する友情と感謝、そして現在の失望の狭間で揺れ動く気持ち。
ルーベンの自分がマウントを取っていたはずのスティービーが先輩たちに目をかけられることや自分にない度胸を持っていることに嫉妬を覚える姿。
皆の気持ちの揺れ動きが手に取るようにわかる。この年代の立場や関係性は数週間、数ヶ月単位ですぐに変動する。自分の中に全員の気持ちがかつてあったことを思い出す。

男の子特有のあのヒリヒリとした感情は少し薄いかもしれない。スケートもしたことはない。
わたしはティーンエイジャー=90sをど真ん中で生きた。
90sを生きていなくても、それぞれにとってティーンエイジャーその年代が故に自分の知らない憧れの世界に少しでも近づきたい、あの感覚は誰もが持ったことあるはず。
それがいつの間にか自分が誰に憧れを抱かなくなりいつからか憧れを持たれる側の年齢になり、(とは言えそのゾーンに入ったことは自分では気づかず、また憧れる何かを成し遂げたわけではないにせよ)その感情の消滅と共に気付かぬうちに自分のティーネイジャーの時代はいつの間にか終わる。
あの感情をリアルすぎるくらいに描いていて何十年かぶりに掘り起こされた感じ。

わたしのリアルmid90sはバンド活動とまだ自分の知らないさまざまなカルチャーを知ること(当時の唯一の情報源の雑誌を隅々まで読んだ)がすべて。その後last half 90sはまさにこの映画のBGMでも使われるHIPHOPへ傾倒した。だから追体験に近いものはある。mid-last half 90sで出会った人々、シチュエーションは重なる。憧れる中でやってはいけないことを差し出される機会、そのシチュエーションとどう付き合っていくか苦悩することもたくさんあった。

自分が誰かが憧れる存在にはなっていないにせよ、今ここにいる理由や原点を忘れないための映画。そして、わたしにとってのレイのような存在だった人を振り返る。
誰かと同じことをする必要はない。自分らしくいることのかっこよさ、クールなこととは何か。カリスマ性はなくても、わたしの目指すべきこと、自分の良さも含めその背中で教えてもらったこと。

みんなにとってのmid 90s、それが90年代でなくても、それぞれのストーリーがきっとあって、どんな影響を受けてどんな師がいて、どうやって今の自分に辿り着いたか、そんなことを語り合いたくなった。

こんな感情を呼び起こされたこと、そんな映画はかつて一度もなかった。最高でした。
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