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ナイチンゲールのryoのネタバレレビュー・内容・結末

ナイチンゲール(2019年製作の映画)
3.6

このレビューはネタバレを含みます

ブラックウォーを背景に暴力と復讐について描いた作品。

暴力描写の生々しさで物議をかもした本作だが、(暴力映画が好きな私からすると)監督の『暴力に酔いしれること』への強い忌避こそ、この作品の中心にあるもののように感じた。
復讐の対象である男たちは一人を除いて皆、容赦する必要など無い、と思わせるほど極悪非道に描かれる。私もご多分に漏れず「ネエサン!ぎったんぎたっんにヤッちまってくだせぇ!」とか思って観ていた。
こちらの黒い怨念が届くかのようにヒロインは怒りと復讐の言葉を吐きながらも、(しかし)常に苦悶と迷いの表情を浮かべ続ける。
ヒロインが我を忘れ暴力により無茶苦茶に復讐を果たすのは唯一、悪事に良心の呵責を感じていたであろう青年だった。
彼はヒロインの子供を殺した。
ヒロインは自分を暴行し、夫を殺した男たちへは(観客が望むような)暴力へのカタルシスに陥ることを拒否する。
我が子を殺した者にだけ、全ての倫理を超越し、忘我の極致で、母として鬼のように暴力の限りを尽くす。
こういった暴力への拒絶と、一人の人間として(母として)の揺らぐ倫理の境界を見つめる視点は女性監督だから描けたものだろうと思った。

ヒロインは自分の背中を押す我々観客のヘイトと戦っているように見えた。

凄惨な作品ではあるが面白く観た。
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