ずどこんちょ

記憶にございません!のずどこんちょのレビュー・感想・評価

記憶にございません!(2019年製作の映画)
3.5
前作『ギャラクシー街道』の常人離れした世界観にはちょっとついていけない部分もあって三谷幸喜監督の映画に少し期待値が下がっていたのですが、今回は良かった!

人間ドラマとしての見応えもしっかりあって、政治家の国民を馬鹿にした感じとか政治不信に関する風刺も効いていて、しかも勧善懲悪のヒーロー映画のような痛快さもあります。
もちろん笑えるのは言わずもがな。
踊る小池栄子に、女豹になる吉田羊に、キャディに扮する佐藤浩市に、不審者感丸出しの変装をする草刈正雄。
今回も三谷監督が俳優陣たちを面白おかしく振り回します。

政権支持率2%の憲政史上最悪と言われるクズ総理、黒田啓介。
ある日演説中に石を投げられた黒田が目を覚ますと、政治家になってからの記憶の一切を失っていました。
記憶を失った黒田総理は、これまでの悪政とは打って変わって、国民に目を向けた正義感のある政治家に生まれ変わるのです。

農家の人たちがさくらんぼの陳情にアポ無しで訪れた時、記憶を無くした黒田総理は「さくらんぼ大好きなんです」とそれに応じます。秘書官の井坂はそれを激しく叱責する。
なぜか。それはしばらく後に明らかになります。その時、井坂は詳しく語りませんでしたが、日本は米国とアメリカンチェリーの関税にかかる外交問題の交渉を控えていたのです。
さくらんぼの陳情に応じた時の黒田総理は政治の事が一切分からない素人でした。だから、それが何を意味する陳情なのかもよく分かっていなかったはずです。彼らが差し入れした裏に、関税に関する申し出があることも気付かずに純粋に農家の人たちの声に耳を傾けようとしていた。
だけどそれがしっかり伏線となっていて、黒田総理は米国の大統領からアメリカンチェリーの関税引き下げを求められた時、自分の意見を伝えるのです。

黒田が浮気をしている妻に向けて送るメッセージも、ど直球でしたけど良かったです。
人間って結局、回りくどさのないストレートな言葉にはやっぱり無防備になりますね。
だってストレートな言葉と公明正大な行動で示されたら、それを批判する受け止め方ってもしかしたら自分の心のフィルターのせいですよ。
この国の政治家にも、余計なしがらみのない"自由な政治家"になってもらいたいものです。