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ラストレターのbutasuのレビュー・感想・評価

ラストレター(2020年製作の映画)
3.0
あまりこの表現は使いたくないのだが、それでも言わせてもらう。エモい。岩井俊二は本当にエモい。「もう戻らないあのとき」を撮らせたら世界で一番なんじゃないだろうかと勝手に思っている。リアリティが無いだとか展開に無理があるだとか、そんなことはどうでもいい。というか岩井俊二作品にそんな事を言いだすのは最早野暮というもの。

広瀬すずの存在感が圧巻。しかも娘を演じるときと若い頃の母を演じるときでその存在感がまるで違って見えるのだから素晴らしい。これは演技力というよりも彼女の"見た目"の持つ圧倒的な力なのだと思う。

そして乙坂を演じた福山雅治は、この映画で新たな魅力を発掘してもらったのではないだろうか。いけ好かない爽やかエリートイケメンばかり演じてきた彼だが、今作ではやはりイケメンではあるものの、しっかりと影を背負った暗くおとなしい男に見える(手紙ではイキイキとキザな感じがとても陰キャっぽい)。仏壇の前で涙を流すシーンもとても良く、こんな役も演じられるのかと見直した。眼鏡と髭の塩梅が良いのだろうか。まぁ監督の手腕が凄いのだろう。

その雰囲気を体現したような存在である神木隆之介の起用はこれ以上ない大正解。松たか子は相変わらず文句無しだし、クズ男としてトヨエツが登場したときにはあまりに最高で思わず震えてしまった。うだつの上がらない乙坂が女をトヨエツにとられるところが容易に想像できすぎる。森七菜も普通に良い。彼女にエンディング曲を歌わせたのは天才の発想。中山美穂はどうでもいい。「Love letter」ファンに対するサービスか?だとしたら結構悪趣味だが。庵野秀明についてはコメントすらしたくないです。なんでわざわざあんな異物を配したのか意味がわからない。

ヒロインに相当する未咲は既に自殺してしまっているので、彼女の人生を追うこの物語はどうしても暗く救われない。だが、乙坂も、未咲の娘も、未咲の妹とその娘も、みんな心に引っかかっていた何かを静かに乗り越えて前を向いて歩みだすことができた。そういう意味ではとてもあたたかい門出の映画だと思う。皆がそれぞれ乗り越えるべきものが、本人にとっては重大ごとでも傍から見たらそうでもなかったりする、その感じもとても良い。
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