蛇らい

ラストレターの蛇らいのレビュー・感想・評価

ラストレター(2020年製作の映画)
3.1
岩井俊二作品が苦手な人の、苦手な理由を煮詰めたような作品。でもそんな企画をやりたがるのが川村元気という人間なので致し方なし。

でもそれを惜しげもなく披露してしまう岩井俊二の創作への信念みたいなものが改めて感じられる。岩井俊二くらいのキャリアや年齢であれば躊躇うものも出てきそうなものだが、映画に自身のすべてを曝け出す覚悟があり迷いもない。

昨今の邦画の恋愛モノ、特にアニメーション作品における恋愛絡みの演出や描写は、明らかに岩井俊二的文脈に則った、或いはそれに付随するような表現の呪縛から抜け出せていない。岩井俊二が生み出した発明とも言えるその手法に影響されてきた世代が、今の映画業界の中心を支えているからだ。

単なる事象や物質にロマンティシズムな意味づけを行い、少年性の高いニュアンスで緻密に肉付けをしていく。それを未だに最前線でやってのけるのが岩井俊二なのだ。しかし、その岩井俊二作品の醍醐味とも言える部分に惹かれなくなってきている。なぜか。見慣れすぎてしまっているのだ。

観客だけではなく、作り手側もある一定の気持ちよさ、心地よさを得られるその手法を無意識のうちに引用してしまっているように思う。その筋のパイオニアみたいな監督が最前線でバリバリにかましているのだから、逆に映像作家たちは意識して避けてほしい。

ジブリでいうと宮崎駿的なアプローチ。逆に高畑勲はストーリー上の出来事に意味づけをしたがらない。起こったことが全てでそれ以上でも以下でもないというスタンスだ。

本作と同様に手紙をモチーフにした『Love Letter』公開から25年の月日を経て、同じくファーストカットは大自然の中から始まる。主演の中山美穂と豊川悦司も揃い踏み。直接ストーリー上でリンクするプロットはない。

主人公の乙坂鏡史郎に対する周りのセリフとアクションが受け付けなかった。乙坂鏡史郎が言ってほしいであろう言葉しか彼に投げかけられていない。つまり、悲しいようで実は悦に浸っているという構図が透けて見えるのだ。

本来なら受け止めたい演出ではあるが、近年の邦画やアニメ作品を想起させ、アレルギー的な反応をしてしまう。この人しかやらなかったから評価されていたのに、第三者によってねじ曲げられた個人的な作家性が蔓延し、それがスタンダードになった現在の状況がそうさせるのかもしれない。

本作の要はなんと言おうと森七奈なのは確実だ。少し砕けた演技が素晴らしく、物怖じをしない度胸も見て取れる。目の奥に秘めたものも感じさせ、只者ではないないなと踏んでます。
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