たかちゃん

恐怖の報酬 オリジナル完全版のたかちゃんのレビュー・感想・評価

4.7
クルーゾーの『恐怖の報酬』(53)を、フリードキンが77年にリメイクした本作は、わが国での初公開時は92分であったが、オリジナル完全版は121分と約30分長く、原題も『WAGES OF FEAR』から『SORCERER』に変更されている。
アメリカでは121分版が公開されたが、『スター・ウォーズ』公開時と被さり、興行的に失敗、大赤字を出しため、日本など北米以外の国々では、監督に無断でカットした短縮版を公開、原題もクルーゾー版と同じタイトルに変更された。2013年にフリードキンは複雑な権利問題をクリアし、121分の4Kデジタルリマスター化に着手、今回わが国でも短縮版公開から40年目にして、ようやくオリジナル完全版の公開に至ったのである。
フリードキンは冒頭で4人の犯罪行動を描き、逃亡の果て、南米の街に流れてくる。短縮版はそこをカットしていたので、4人の履歴が判らなかった。この4人の犯罪者の特技が、ニトロ運搬中に活かされる。カッセムの巨岩爆破、山賊のようなゲリラをニーロの銃が一掃する。短縮版では冒頭のアメリカ、フランス、メキシコ、イスラエルのエピソードがカットされていたので、面白さが伝わってこなかった。
そして美術の素晴らしさに改めて感服した。丸太の橋の崩れ方、吊り橋のゆがみ方、穴だらけのトラック。息継ぐ間もない見せ場と緊張感の持続。生き残ったスキャンロンのシニカルなラストで、本作のテーマがようやく見えてくる。
『フレンチ・コネクション』のポパイ刑事の執念。『エクソシスト』の悪魔祓いで命を落とす神父。フリードキンの世界にブレはない。本作の出演者とスタッフの多くは亡くなっているが、フリードキンの執念は彼らの功績に報いたのではないか。多層的原題の『SORCERER』の意味は何か。完全版復元を成し遂げたフリードキン自身のことではないか。
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