終始静かで落ち着いたトーンの中に潜ませた情熱の炎と抑えた感情の波が、心に残ってじわりとあとを引くような作品。
主演のエミリー・モーティマーの演技がとにかく素晴らしかった。
1959年のイギリスの、海辺の小さな町を舞台としたロケーションも美しく、クラシカルな雰囲気の映像が、このストーリーにマッチしていてとても良かったと思う。
本を愛する未亡人フローレンスが夫との夢だった自分の書店を開くために奮闘するこの物語は、美しい装丁の様々な本が整然と並ぶ書店の様子や、レイ・ブラッドベリの名作たちやナボコフの『ロリータ』などの有名な作品名が次々と出てくるところも、本好き文学好きの人にはたまらないのではないかと思う。
閉塞的な町で様々な困難に立ち向かいながら、なんとか書店をオープンさせ、夢を叶えた幸福に浸り、充実した日々を過ごせるかに思えたフローレンス。
だがそんな彼女にまたしても苦難が待ち受けていた…。
保守的な町の人々と、彼女の書店経営を邪魔しようとする町の権力者たちとの闘いに孤軍奮闘するフローレンス。
そんな彼女にも、心の支えとなる味方が現れる。
40年も自身の邸宅に引きこもっているちょっと変り者で読書好きの老紳士ブランディッシュ氏は、フローレンスが薦めてくれた本を気に入ったことから、本を通じて次第に気持ちも通じ合うようになり、苦境に立たされるフローレンスをなんとか支えようとする。
この二人の関係性がとても素敵。
ある美しいシーンは、お互いへの想いとその静かな熱が胸に迫ってグッとくるからこそ、そのあとの結末に深い切なさを残します。
ブランディッシュを演じたビル・ナイの英国紳士っぷりがとても素敵。
去年観た『人生はシネマティック!』も良かったけど、この年齢でも格好いいよね、ビル・ナイ。好きだなぁ。
そして、フローレンスの書店を手伝う少女クリスティーンも、子供ながらにフローレンスを支え、彼女の心情や苦労を理解し、ラストはある行動に出るのだけど、これが天晴れで、苦く切ないラストに少しだけ救いを与えていた。
読書好きではなかったクリスティーンに、フローレンスの情熱がしっかりと受け継がれていたのも良かったな。。
そしてフローレンスとクリスティーンのファッションが、どれも凄くお洒落で可愛かった。
さりげなく凝ってる衣装や美術、小道具などもいちいち可愛くて目がいくと思うので、これもこの作品の見どころです。