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楽園のknjmytnのレビュー・感想・評価

楽園(2019年製作の映画)
4.6
“ユートピア“の和訳は“楽園“。
“ディストピア“の和訳にはうまい日本語が存在しない。

ひとりひとりが小さくとも他者に対して生み出しているディストピアを決して認めようとしない、日本独特の気質を描ききった映画。

多くの人にとってのユートピア、楽園がありさえすれば、個人や少数の人にとっての絶望的な世界、ディストピアは無視する。存在しないものとする。

そういう日本全体が許容し、楽園としている、ムラ社会的な怖さ、厳しさ、欺瞞、嫌悪感をこれでもかと描いてくる。

不器用で、実直で、切実な青年。綾野剛。
“そこのみにて光輝く“で嗚咽するほど感動した自分にとって、今回の綾野剛も本当に心震える存在。
日本語がうまく扱えず、日本社会に認められず、あまりに小さい世界から疎外されて、本来的に抱えてる、大きい人間的な実直さや、心根の優しさは無視され、殺される。

今日現在、実社会で起きている無為な嫌がらせの数々。
あらゆる文化や飲食店、まして医療従事者でさえへも。

この短絡的楽園限定認定症の悪癖が日本らしさとするなら、こんな国はいっそ徹底的にぶっ壊れてしまった方が良いんじゃないかと思ってしまう。とても悲しい。

この映画が描いてることが空想的なフィクションではなく、とても切実で日本社会が抱えてる病巣の根幹を突いてるように感じるのは本当にまずい気がする。
どうすれば変えられるんだろう。

ありえねーこんなの
って言える社会が来る日はあるのだろうか。そんな日が一刻もはやく来てほしい。

たとえどんな人間だとしても、たった一人のディストピアを、徹底的な絶望を、それを生贄とした楽園なんて、楽園なわけがないのに…

まるで天上世界の、すべてが許される、盲目的快楽的楽園は生きている限り存在しない。
生きている限り生じるあらゆる苦悩や不幸を抱えながらも、それでも生きる。生きる。
そういう覚悟を植えつけられる名作だった。

ちなみに都市からここで描かれるような自然豊かな地域へ引っ越してきたが、ムラ社会的な狭い了見の迫害や嫌がらせはここではまったくなく、都市の方がよく遭遇していた印象を持っている。
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