hajime363

ぼけますから、よろしくお願いします。のhajime363のレビュー・感想・評価

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とても良いドキュメンタリー映画でした。

この映画は、例えば“認知症”というものを罹患者が何人で、症状と治療法は…とかそういう問題提起がある訳ではなく。
被写体の今を、とりわけ“夫婦”という視点で切り取った映像。そこに作為は無くて、純粋に自分が感じたことに集中できる。

ということで、以下は個人的に感じたことなので映画の本筋からは逸脱する可能性大です笑

◆共同生活と恋愛
映画の二人はお見合い結婚でした。
結婚というと、永遠の愛を誓うため公衆の面前で接吻するイメージがありますが、助け合いながら生活を営むことは決して恋愛の延長に限定される訳ではない。
いつから共同生活と生殖行為が恋愛感情と一緒くたにされるようになったのか掘り下げてみたい…

誤解の無いように補足しますが、映画の中の老夫婦がそういう割りきった関係なのではなくて、むしろお見合いという文脈でありながら慈しみや互いを思い会う感情に溢れているように見えます。

◆認知症と鬱
「だんだん分からなくなる。なんで分からなくなるのか分からない…」

認知症を患った妻の言葉。
日々、出来ていたことが出来なくなる、分からないことが多くなる…ということは“分かる”。
前述の共同生活という文脈を加味しても“自分が役立たず”になる、という重圧と恐怖。

鬱病にも近い無力感、疎外感は映画の後半で爆発する。

「感謝せぇ!」
取り乱す妻に向かって、ずっと温厚な姿で写し出されていた95歳の夫から発せられるドスの効いた広島弁に不覚にも涙してしまった。

誰かの支えがないと生きられないことを卑下するのではなく、助けてくれる人や状況に感謝をして生きろ、と。

とてもパーソナルな内容でありながら、とてつもなく普遍的で強烈なメッセージを含む。
多くの人に観てほしい映画です。


とっても良い夫婦でした。
hajime363

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