ボブおじさん

グリーンブックのボブおじさんのレビュー・感想・評価

グリーンブック(2018年製作の映画)
4.3
NYの一流ナイトクラブで用心棒を務めるトニーは、ある天才黒人ピアニストにコンサートツアーの運転手として雇われる。黒人用旅行ガイド=グリーンブックを頼りに差別の色合いの強い南部へのツアーへ出発するが…
出身も性格も正反対の二人が繰り広げる実録ロードムービー!

人種偏見を持つ粗野な白人と教養豊かな誇り高き黒人が、最初は反目し合いながらも紆余曲折を経てやがて二人にしか分からない絆で繋がっていく。

このプロットから最初に思い浮かんだのは、「夜の大捜査線」(1967)。
上品なスーツに身を包むエリート刑事を演じたハリウッド初の黒人スター シドニー・ポワチエと人種差別丸出しの地元警察署長を演じアカデミー賞主演男優賞に輝いたロッド・スタイガーが共演した大傑作サスペンス映画だ。

両作品とも人種差別が色濃く残る1960年代のアメリカ南部を舞台にしているが、「グリーンブック」が「夜の大捜査線」を始めとしたこれまでの白人黒人のコンビ映画と大きく異なるのは、〝黒人が白人を見下ろす〟視点で描かれている点である。

「ドライビングMissデイジー」「48時間」「最強のふたり」などこれまでの映画は、〝白人が黒人を上から見る〟目線で描かれていることが多い。

しかし、この映画ではその関係性が逆転しており、黒人を差別する他の人々との関係性と異なる微妙な違和感と独特な可笑しさが肝になっている。

映画の中でトニー自身が「イタ公」と差別される場面があり、彼もまたマイノリティであり差別の対象者でもあったことも示される。

この極めて特殊な関係性に説得力を持たせたのは、主演二人の演技によるところが大きい。ヨーロッパで修行し、3つの博士号を持ち、語学堪能。語彙も文才も豊かで身なりも整えたドクター・シャーリーを洗練された佇まいでエレガントに演じたマハーシャラ・アリ(アカデミー賞助演男優賞)、粗野でケンカっ早いイタリア系庶民の用心棒を体重を増量しイタリア訛りで演じたヴィゴ・モーテンセン。この二人の演技で何の違和感も感じずこの特殊な関係性を受け入れることが出来た。

教養ある繊細なアーティストとガサツな用心棒という水と油の二人が、当初は衝突を繰り返すものの、旅先で起こる困難を通して互いに歩み寄り、友情を深めていく様が心打たれるシーンと共に綴られる。中でも旅先で、妻に宛て馴れない手紙を渋々書くトニーの姿は、微笑ましい。

人種差別というテーマを扱いながら、笑いを交えた軽やかなタッチで、ユーモアと感動のバランスが絶妙。

主演の二人による心の機微を巧みに表現した演技が深みを与え、アカデミー賞作品賞を受賞したのも納得。

因みに1964年に公民権法が成立したことを機に人種差別が禁止され、グリーン・ブックはその役目を終えたらしい。

トニーの息子が書いた脚本は、実際の話をかなり脚色しているとは思うが、エンターテイメント作品として十分に楽しむことができた。


2019年10月に劇場にて鑑賞した映画をDVDで再視聴。