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グリーンブックのDSPECのレビュー・感想・評価

グリーンブック(2018年製作の映画)
4.0
1964年の公民権法の制定で表面的に黒人は白人と平等という権利が保障されたがそれよりも2年前の物語である。

この当時は白人と黒人の区別はいたって普通の事で、大半の白人は黒人が憎いという感情すら無く差別はごく当然の事として捉えていた。

トニーが黒人が飲んだグラスを捨てるシーンもレストランでドクが排除されるシーンも彼等には悪気など微塵も感じられない。ドクは自分に対して受ける差別に関してはある程度達観していて諦めや覚悟さえうかがえる。


この映画は人種差別をテーマにしている様に見えるが、本質は孤高の天才ピアニストのドクター・シャーリーが神が与えてくれた才能と引き換えに、人間として何かが欠落した部分を取り戻そう必死にもがき苦悩する様子を描いている。

ドクの不正に対して病的な潔癖性や、潔癖が故に自分がゲイである事の罪悪感や、苦難を乗り越え頑張るほど仲間であるはずの黒人からも異物として見られる負の感情。

人を寄せ付けず心を閉ざし自分を戒めて生きてきたドクに必要なのは、包み隠さず自分を曝け出せるトニーの様な “ 友 ” の存在。アルプスの少女のクララとハイジの関係性に等しい。

勇気を出してトニーの家の扉をノックするドク。我々には彼はもう大丈夫だ、自分を解放したんだという安心感を与えてくれるラストシーン。


グリーンブックは黒人が安心して旅行に行き宿泊出来るホテルのガイドブック。黒人への優しさや配慮が感じられるが反面、あなたは差別される対象ですと宣言されるジレンマ。

アメリカの黒人のルーツは自分の意思とは関係なく奴隷として強制的に連れてこられたアフリカの黒人達で、彼等は決して自ら望んでアメリカに来た訳ではないという事実。

多くのアメリカ人は黒人に対してより謙虚な気持ちで、慈愛と尊敬の念で接するべきだと思う。
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