Scarborough

グリーンブックのScarboroughのレビュー・感想・評価

グリーンブック(2018年製作の映画)
4.3
遂に観ることができた作品。ずっと気になっていたのは、友達から強くおすすめされていたから、というのと、アフリカンアメリカンにまつわる作品だったからという理由。

観始めて何に驚いたかって、自分がDon Shirleyを知っていたこと。
彼のピアノは聴いたことがあった。ジョイスのフィネガンズウェイクをテーマにした作品だった気がするけれど、まさか、その彼のお話だったなんて。鑑賞前の勉強不足を反省する。

人種を超えた友情の物語と宣伝されれば、それはそうなのだけれど、このお話の肝はもっと別のところにもあるんじゃないかと、ふと、リチャードライトの作品を思い出した。

同じ黒い肌の人々から向けられる視線に、彼らと交わることに、違和感を覚えるドン。白人から疎外された世界にいて、けれど、黒人コミュニティの中にも存在しない自分。アウトサイダー。

そして、トニーについても、忘れてはいけないのは、彼も彼とて、アメリカ白人コミュニティにおいては、ある種異質な存在であったということ。
イタリア語を話すコミュニティの中にいる。

そもそも、トニーが黒人に対して向けていた眼差しと、白人コミュニティが黒人に対して向けていた眼差しとは根本的に異なるのでは、ということ。

トニーの奥さんがコップをそっとゴミ箱から拾い上げるシーン。浮かない表情は、彼女には、もっと色々なものが見えていたからなのではないか、と思う。
恐らくは、トニーが心の奥底で感じていて当初、戸惑いや苛立ちとして表現したもの。

そんなことをつらつらと考えてると、物語終盤がちょっと違って見えてきた気がする。
自身のルーツとは、アイデンティティとは、社会とは。
それを2人はまるっと乗り越えて(乗り越えてはいないんだろうな、迂回しただけかもしれないけれど、それでもお互いの存在を通じてそこに向き合ったんだ)、その後に、あの最後があるんだと思うと、胸が熱くなる。

勉強になった、素敵な作品でした。
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