Jun潤

峠 最後のサムライのJun潤のレビュー・感想・評価

峠 最後のサムライ(2020年製作の映画)
3.6
2022.06.21

役所広司主演作品。
予告の感じからゴリッゴリの歴史作品で食指は鈍りましたが、コロナ禍の影響で3度の延期を経ての公開となり、その分予告編も見たものだからこりゃ観ないわけにはいかんとこの度鑑賞です。

260年続いた天下泰平の江戸の世が黒船来航によって終わりを迎え、15代将軍・徳川慶喜による大政奉還後、新政府軍と旧幕府軍が戦う戊辰戦争の最中、欧州列強と外交するほどの優れた交渉力や幅広い知識、卓越した戦略性を持ちながら、朝廷や幕府に仕えるのではなく、長岡藩の家老を全うすることを自身の役割として譲らない河井継之助の、人生の最期までを壮絶に描く。

役所広司の役所広司による役所広司のための河井継之助作品。
良くも悪くも役所広司が演じる河井継之助が最前面に押し出されており、悪い面では他の豪華役者陣の影が霞んでしまっていましたが、多様な登場人物が登場したり、歴史の転換点となる出来事が多く巻き起こったりした幕末の世を、河井継之助にフィーチャーして描いた見応えアリな歴史作品。

イメージとして、幕末当時の日本人といえば、国のために自身の命を燃やす熱きサムライたちというものがありますが、今作は原作小説にはない副題として『最後のサムライ』が付いているように、敵である新政府軍の横行に苦言を呈しながらも、自軍である旧幕府軍にも勝つ見込みはないと諦めすら感じている、しかしそんな中にあっても長岡藩は独立して自分達だけのための国を作ろうという、河井継之助のサムライとしての心情がバチバチに伝わってきました。

印象に残ったのは合戦シーンですね。
最近の歴史作品では広ーい草原を使ったスペクタクルな場面を制作するのが主流になっていましたが、今作ではシチュエーションを限定しながら、爆音や特効、土煙などを使って濃密で一つ一つの噛み応えがしっかりした仕上がりになっていました。

逆に気になった点としては、全部ではないですが場面転換の際の妙なスライドと、劇伴曲が時代設定にあまりマッチしていなかったことですかね。
仰々しい喋り方やセット、衣装などで幕末らしい雰囲気を出せていたのに、台無しになりかねないBGMのチョイスは作品への悪影響を心配してしまいますね。

欧州列強の危機に瀕しながら、その中にあっても日本を強い国に、さらにその中で長岡藩として独立し自分らしく自由に生きられる国を目指し続けた河井。
サムライの世は自分で終わりと、最期の最後まで誇りを持ち続けた男。
個人的には藩よりももっとパーソナルな部分にこだわったキャラクターとして仕上げてもよかったのかななんて思ったり。
Jun潤

Jun潤