さすらいの用心棒

ジョーカーのさすらいの用心棒のレビュー・感想・評価

ジョーカー(2019年製作の映画)
3.9
心優しき男は、なぜジョーカーになったのか──────


「人生は近くで見ると悲劇だが、遠くから見ればコメディだ」といったチャップリンは、作中でも登場する映画『モダンタイムス』で精神を病み、職を転々とする男の悲劇を笑いとばすことで喜劇に変えたが、この映画はひとりの人生をクローズアップすることで、笑うしかないような不幸をストレートな悲劇として投げかけた。

それでも、遠近感が異なるだけで、両作品の有する寓話性には相通じるものがあり、それがこの映画のクオリティを格段に上げていることは間違いない。

「貧富の格差」や「分断」といった社会問題に触れつつも、本質的に「ジョーカー」という特殊な個人についての映画になっている。それでもジョーカーにどこか共鳴するところがあるとすれば、どこかでじぶんが感じる「疎外感」を彼に見るからだろうか。

彼がジョーカーになった原因にありとあらゆることが加担したわけだが、最後の引き金となったのは、存在していないものとして扱われてきたことへ怒りと、自分の存在意義を認められる幸福感という、高尚ではないけれど根本的でまっとうな感情があったためではないかと思う。それは、個人主義化された社会において、とても普遍的な感情に思える(Twitterで見かける現象などはそれに近いのではないだろうか)。だからこそ、ここまで多くの人に共感をもって鑑賞されたのではないのか、と想像する。

ストーリーやジョーカーの行動原理など非常に隠喩的で、見たときは「面白い」という前に深く考え込んでしまったが、感情にではなく頭に訴えてくる映画なためか、あとからじわじわとくる。

ホアキンの演技も最高だし、感想もいまだにまとまらないが、良い映画だった。