カフェの客の俳優率高すぎるだろ。近くに劇場でもあるんか?と思いつつ、話は結構、重い。ホン・サンス作品のどうしようもない男のどうしようもない恋愛話ではない側面、すなわち死や負の感情が全面に出ている。
以下、ネタバレを含みます。
本作はカフェでMacをひろげて何かを書いている彼女ーキム・ミニが、他人の身の上話を盗み聞いている物語とひとまずいってよい。自殺をしたのはあなたのせいだとか、年を重ねた俳優が住処をなくして後輩の女優に頼みこんでいるとか、そんな話が聞こえてくる。彼女も「気難しい人」なのだろう。彼らの切羽詰まった語りを冷めた態度で解釈する。確かに住処をなくした男の下心というか下にみている感じは分からなくもないが、そんな風に思わなくてもよくないか?と思ってしまう。ただ彼女がそういう風な思考回路になってしまうのも、カフェで「10日間一緒に制作しませんか?」というキモいナンパをされるように、生きている/そこにいるだけなのに加害に曝されるからなのは察して余りある。しかしそんなナンパを助けてくれた弟ーただそこにいて彼氏と間違われただけだがーと彼の恋人とご飯を食べている最中に、本当に知りもしないで結婚なんて考えるのはおかしいと逆上するのはどう考えてもおかしい。
劇伴の使い方もどこかおかしい。音量は大きいし、過剰に挿入されているし、会話の調子と全く噛み合っていない。それが意図的であり、彼らの深刻な会話がはたからみたら無意味なものであることをアイロニカルに示しているのなら、彼女の態度と同じく意地悪だと思う。
弟と喧嘩した彼女は、再びカフェに戻ってMacをひろげている。そして同じくあの住処のない俳優たちーまだいるんかいーの会話を盗み聞いている。盗み聞いているということは、他者に開かれているということだ。あの俳優が誘ったら断るくせに、彼がいなくなって女性に声をかけられたらちゃっかり座る辺りに彼女の気難しさが滲み出ている。それで彼女はMacに何を書いているの?
蛇足
助教授(?)の自死の原因を会話する若い女性と同僚で初老の男が会話するショットは、いつもの対面する二人の横顔をシンメトリーに撮る構図ではなく、初老の男の肩越しの女性の顔になっている。こういう風にも撮るんだと思いつつ、なんでこのカメラポジションかは全く分からないし、フォーカスが男の肩になるのが不思議すぎた。