もう、その名の通り。
ブラのお話。
広大な草原も、狭い線路の両脇に立ち並ぶ住宅街も、毎日走り抜ける貨物列車。定年退職を控えた鉄道運転士ヌルラン(ミキ・マノイロヴィッチ)は、列車に美しく青いブラジャーが引っ掛かっているのを見つける。
「このブラは誰のもの?」
持ち主を探す日々が始まる—— 。
様々なブラのレース模様が拡大されたアバンタイトル。
ブラは…
芸術だッ!!
鮮やかだけど、滲んだような色味。舞台となるアゼルバイジャンの狭い街並みも、山間の村落も、雄大な山々も、映し出される映像全てが美しくて溜息が漏れる。
主人公ヌルランを演じるのは、エミール・クストリッツァ監督作「アンダーグラウンド」、「黒猫・白猫」で知られるミキ・マノイロヴィッチ。
全編台詞なし。
一言も台詞を発する事なく、ここまで惹きつけるのは凄い。
「シンデレラ」のガラスの靴の様に、訪れる女性宅で、一人一人試着してもらう様子が堪らなくシュール。
列車が近付くと、街の人達に危険を知らせる為、少年が笛を吹きながら線路の上を駆けて行く。
線路の上でテーブルと椅子に腰掛けてティータイムに耽っていた男達も、線路を跨いで洗濯物を干していた女性達も、皆慌ただしげに線路から逃げていく。
そんな彼らの日常は不便だけど、平和そのもの。
終盤。
ヌルランのブラ探しを手伝う少年。
少年と老人との友情にほっこりする。
にしてもだ。
身寄りのない少年が犬小屋で寝泊まりしている描写にはギョッとした。
現代の寓話のような作風。
ああ、なるほど。
「世界でいちばんのイチゴミルクのつくり方」のドイツ人監督ファイト・ヘルマーが撮ったと知り、妙に納得。