MasaichiYaguchi

ホワイト・クロウ 伝説のダンサーのMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

3.7
俳優のレイフ・ファインズが構想20年を経て、監督&出演して映画化したのは世界3大バレエ団で活躍したルドルフ・ヌレエフの半生。
タイトルの「ホワイト・クロウ〝The White Crow〟」を直訳すると「白いカラス」になるが、転じて「あり得ないもの」「はぐれ者」「類い稀なる人物」となる。
映画で描かれたヌレエフを見ていると、「ホワイト・クロウ」の意味そのままに、「類い稀なる人物」ではあるものの、才能を持った者に有り勝ちな周りの空気を読まずに自己中心的で傲慢、鼻持ちならない「はぐれ者」の青年であることが分かる。
良く言えば「孤高」、「上昇志向の塊」である彼のバックボーンには、彼がソ連の属国であるバシキール自治共和国の首都ウファの出自であることへのトラウマのような負い目があるからではないかと思う。
だから自らの才能を武器に〝ツッパリ〟続けるのだと思うが、彼を〝指導〟、〝監督〟する立場にいる者にとって彼はいけ好かない存在以外の何者でもない。
それでも彼の才能を高く評価して支持し、手を差し伸べる者達もいる。
そんな〝後押し〟もあって、東西冷戦下の1961年、ヌレエフは運命的な海外公演で初めてソ連を出国する。
映画の後半は華やかなパリ公演の様子と、パリで知り合った〝西側〟の人々との交流が印象的に展開されていく。
ヌレエフ役のオレグ・イヴェンコ、その友人ユーリ役のセルゲイ・ポルーニンをはじめとした一流のダンサー達によるバレエは観ていてウットリする程美しい。
そして、現在のパートに彼の記憶として随所に挿入される彼の幼少期の描写は沈んだモノトーンで描かれていて強いコントラストを成す。
幼少期と現在の姿で浮き彫りにされた彼の〝肖像〟は、ポスターやチラシにあるキャッチフレーズ「生きることは踊ること。踊ることは生きること。」に結実していく。
そのことを何よりも象徴的に描くのが、終盤で繰り広げられる緊迫感溢れる展開。
この作品を観ていると、自分の才能を信じ、国家や家族を棄ててまでも「踊ること」と「自由」を必死に希求した一人の青年の姿が鮮烈に浮かび上がります。