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暗数殺人のumisodachiのレビュー・感想・評価

暗数殺人(2018年製作の映画)
3.7
2018年に韓国で公開された作品がようやく日本公開。4月3日からなんだけど、わけあって事前に観ることができた。韓国で実際に起きた事件が元になっており、遺族から訴えられたりなんだりとトラブルもあった作品らしい。

恋人を殺した罪で逮捕された男・テオ。ある日テオは刑事のヒョンミンを呼び出し、「全部で7人殺した」と唐突な告白をする。証拠はないがやたら詳細なテオの証言が気になり、ヒョンミンは単独で捜査を開始する。警察内部では誰もまともに取り合わないし、テオは顔を合わせる度に態度が違う上に、いちいち見返りを要求してくる。振り回されながらもヒョンミンは粘り強く調べ続け、遂にテオの供述通りの場所で白骨死体を発見するのだが……。

『チェイサー』などのキム・ユンソクと、『アシュラ』などのチュ・ジフンのダブル主演。なんといってもテオを演じるチュ・ジフンのトリッキーな演技が光る。あるときは上機嫌、あるときは非常に理知的、あるときは突如として激昂……と、どう出てくるかわからない予測不能の男を見事に演じている。

タイプとしては『羊たちの沈黙』系なのだが、テオはレクター博士よりもずっとムカつく男だ。最初っからヒョンミンを利用する気満々だし、完全に手玉に取れると決めてかかっている。それを分かっていながら、もしかしたら本当に被害者がいるのかもしれないという正義感だけで耐えるヒョンミン。冒頭からずっと力関係が歪なので、観ているとけっこうストレスが溜まる。「こんな奴、相手にしなくていいよもう!」と言ってやりたくなる。

でも、ヒョンミンはそうしない。全国で数多くの失踪者がいて、そのうちの多くが見つからないまま闇に葬られていることを知っているからだ。その中の数人でも見つけてあげられたら…と思っているからだ。

日本でも毎年多くの行方不明者が出ている。例えば、平成30年の行方不明者は84,753名。そのうち、所在確認された人は72,949名。死亡が確認された人は3,833名。その他は7,971名。つまり、所在もわからず死亡も確認されていない人が、7,971名もいるのだ。(「その他」なので、内訳は色々あるのだろうが)

本作は、そういった行方不明者の暗数に光を照らすことを第一目的にしている。誰にも知られず、どこかに消えてしまう人が毎年少なからずいて、そのうちの何人かは誰かに命を奪われているのだろう。ニュースにもならずに歴史の影に消えて
人たちを浮かび上がらせている作品なのだ。

韓国の犯罪映画は思い切った描写が多いが、本作の描写はかなり控えめ。直接的な殺人シーンも、グロいシーンも、目を背けたくなるほど暴力的なシーンもほとんど出てこない。メインはテオとヒョンミンの会話劇であり、最も緊張感が走るのは、何度か訪れるテオが豹変する瞬間だ。

傲慢で信用できない謎の男テオに翻弄されるヒョンミン……という図式が終始続くが、もちろんそれだけでは終わらない。その展開はぜひ自分の目で確認してほしい。強烈な演出がなくても、十分に良質な映画が作れる。またもや韓国映画の底力を感じた。

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