クリント・イーストウッドがあまりにも老人として美しい。ユーモアと色気、哀愁と渋みがあるのだが、それだけでなく年相応の弱さ、時代錯誤感が垣間見えるのがキャラクターとして魅力的である。
そのような人物が広大な国土を風に吹かれながら音楽と共に車で走る映像は心地よいものだ。
随所に散りばめられたユーモアは控えめで薄っすらと毒があるが味わい深い。蔓延る犯罪と家族との確執、アメリカ特有の人種的問題などが題材だが、雰囲気がカラリと乾いており説教臭く感じないのはユーモアのお陰だろう。
そんな映画全体の淡々とした語り口は、作中イーストウッド演じるアールによる押し付けがましくない飄々とした人生のアドバイスとも共通している。
おそらくこの映画の良さの大部分が、監督兼主演を務めるイーストウッド個人から滲み出るものなのだろう。周囲のスタッフやキャスト陣、そして劇的に過ぎない脚本や演出がその良さを損なわずにしっかりと支えている印象。
語るべき事を語りながらもエンターテイメントとしての自覚も忘れない。そういった一種の生真面目さ、誠実さを感じる良い作品だった。