tagomago

運び屋のtagomagoのレビュー・感想・評価

運び屋(2018年製作の映画)
4.5
すごい、これが熟練の職人。監督と役者の両方に凄みを感じる。前作が実験的な映画だったのでその落差にくらっとするほど映画的だった。冒頭からイーストウッドもヨボヨボになったなと思っているとそこから12年後に飛んでおぼつかない足取り、曲がった背中に驚く。12年の間をしれっと簡略化して説明しきる無駄のなさよ。

緊張感のある音楽やキレキレの映像があるわけでもないのになぜこんなにも面白いんだろう。ガチガチのシリアスにも作れただろうにある種の緩さが散りばめられている。コメディありサスペンスありと足取りはかなり軽やか。
ボーダーラインや悪の法則を見て麻薬カルテルの恐ろしさを嫌というほど見せつけられたいま、イーストウッドがまるで子ども扱いでもするように余裕綽々の佇まいで接するのでハラハラ。容赦ない奴らのはずだけど話せば分かるやつら程度に描かれており回数を重ねるごとに仲良くなっていく描写に頬が緩む。それゆえあいつらどうなったんだろうと気になってしまう。そこに善悪は関係なくその目線はどこまでも平等だ。

中盤以降はアールというよりはイーストウッドそのもの。外にばかり出て行ってすまないとか承認欲求が強くてすまないとかまるで自分のことを話すかのように反省の弁を述べる。劇中の娘を実の娘に出演させて懺悔をする。伝記映画的な雰囲気も出す正真正銘のイーストウッド映画。

見終わった後は、爺さんが流した麻薬で犯罪は増加しただろうにその辺りは描かないとか、家族はそれで許せるの?とか着地の仕方に疑問は残るけれどもイーストウッドが演じてるから許される感はある。再三にわたり仕事よりも家族と訴え終いには麻取のブラッドリー・クーパーまで説法をかます。師弟の会話シーンは劇中少ないがどれもが胸を打つ。
tagomago

tagomago