風の旅人

運び屋の風の旅人のレビュー・感想・評価

運び屋(2018年製作の映画)
4.0
家族を顧みず、仕事一筋に生きてきた男の贖罪の物語。
マッチョイズム溢れるアール(クリント・イーストウッド)がお茶目で笑う。
特にマフィアが仲間同士揉めている中で、我関せずリップクリームを塗る姿が印象的だ。
最初は自由奔放なアールに業を煮やしていたマフィアたちだったが、しだいにアールのペースに乗せられていく様が面白かった。

「人生には寄り道が必要だ」と言わんばかりに、ルートを守らないアールの運転に怒り心頭のフリオ(イグナシオ・セリッチオ)は、ボスのラトン(アンディ・ガルシア)に電話するが、ラトンはアールのやり方を支持する。
しかしある日カルテルでクーデターが起こり、ラトンの後釜に座った新しいボスは、アールの勝手なやり方を許さない。
かつてインターネットの登場でアールの農園の経営が悪化したように、マフィアの世界にもインターネット世代の効率重視の波が押し寄せていた。

「人生を楽しめ」とフリオを諭すアールは、一方で偶然カフェに居合わせたDEA(麻薬取締局)のベイツ(ブラッドリー・クーパー)には、「俺みたいになるんじゃないぞ」と諭す。
アール自身がアンビバレンツに引き裂かれた存在で、仕事にかまけて家族をないがしろにしながらも、麻薬の輸送中に歌を口ずさんだり、部屋で美女と戯れたり、どうみても人生を謳歌しているように見える。

口が悪く(アールが「Nigger」と言った瞬間、「Black」と訂正されるポリコレを意識した演出が見られる)、娘の結婚式よりも品評会を優先するアールは、決して尊敬できるような人間ではない。
アールは麻薬密輸で得た金で、家族に贖罪をしようとするが、「金があっても時間は戻せない」ことに気づく。
元妻のメアリー(ダイアン・ウィースト)が余命宣告を受け、仕事よりも家族と過ごすことを選んだアールだったが、ついに犯行がばれ裁判にかけられる。
取り返しのつかない過去を受け入れるように自ら罪を認めたアールは、刑務所で自分の人生の象徴であるデイリリーの花を育てる。
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