蛇らい

ウエスト・サイド・ストーリーの蛇らいのレビュー・感想・評価

4.3
これから何か凄まじいものが始まると予感させる長回しのファーストカット。荒廃した瓦礫の中を上空からすり抜けるカメラワークから物語が始まる。物語はこれからこの街とともに崩れ去る人々を暗示させるかのような見事なまでの雄弁さに感嘆した。フィルム撮影とは思えないほどの煌びやかな色彩と、フィルムの質感の見事な融合が明らかに映画的マジックを起こしている。

『ウエスト・サイド物語』から感じられた役者、ダンサーの人生を内包したような熱狂の演技やダンスがそのままに再現できている。隅々まで計算され尽くした振付とポジションチェンジを繰り返し、それをヤヌス・カミンスキーのショットのリッチさで捉えることで、この上ない多幸感が押し寄せる。

体育館でのダンスパーティーは特に圧巻で、これを見せられたら手放しで賞賛する他ないという境地まで連れて行ってくれる。少なとも昨今の良作とされてきたハリウッド映画でもショット強さでは足元にも及ばない。

人々の尊厳は何よって守られ、奪われてゆくのか、オーセンティックなストーリーだからこそ見えてくる社会の構図を取りこぼすこともない。物語が無常な結末を迎える経緯に、トキシック・マスキュリニティにあることが意図的に前傾化して描かれている。それは血生臭い路地裏の抗争に限らず、家での立ち振る舞いや女性との会話など、生活に根付いているものとして繊細に描かれている。

現代の社会問題と、映画的な楽しさや優雅さが完璧な配分で描かれた傑作。映画史の名作をアップデートし、成功させる手腕は、本物の巨匠として認めざるを得ない。
蛇らい

蛇らい