マインド亀

キラーズ・オブ・ザ・フラワームーンのマインド亀のレビュー・感想・評価

5.0
●『グッドフェローズ』『ウルフ・オブ・ウォールストリート』『アイリッシュマン』に続く、犯罪に手を染めてから転落するまでの主人公と周辺の一代記を描いた映画としてさらに高みに登った作品でした!

●スコセッシの一連の作品は、人生の岐路となる選択が常に主人公に迫られます。どの選択肢を選んでも行き着く先は地獄、ということが多いのですが、本作の主人公アーネストはスコセッシのこの一連の作品に比べて最も凡庸な主人公で、どの作品の主人公よりも、上からの指示を漫然と受け入れ、盲従することが多いのが印象的でした。
思えば、オセージ族を惨殺してきた犯人という事実が明るみになった時点で、モーリーや子供達と寄りを戻してオセージ族の中で幸せに暮らせるわけもないのに、必死にそれを取り戻そうとようやく最後にヘイルに逆らう姿は、いまさら感が否めず、滑稽で愚鈍な感じがしました。また、本作のラストでモーリーから「道を誤らないでね」と言われた後の「インスリン注射の中身は何だったか」という質問は、自分の罪をさらけ出して贖罪をするかどうかの選択肢であり、妻に許しを請う最後のチャンスを逃してしまう愚かさを露呈してしまいました。
しかしながら、彼の今までの選択を自分ならどうするか、ということを考えると、全く責めることができないのも事実ですし、最も人間味のある誰からも憧れられないキャラクターだと思いました。

●ところで、頻繁にアーネストの周りに出現し、エンドロールの音にも現れる「蝿」は一体何を意味するのでしょうか。鑑賞後にあらゆる考察を読んだのですが、「自分の世界を守るために邪魔なものを排除する人間の本質の象徴」とか、「旧約聖書にも出てきた悪魔・ベルゼブブ(蝿の王)」だとか、どれもピンときません。ネットサーフィンで私が調べた浅はかな情報では、星野道夫の『旅をする木』というエッセイで、ナバホ族の神話では、「ハエ」が、困っている時に、肩に止まって「叡智」を授けてくれる存在だと書かれているそうです。ナバホ族とオセージ族が文化や信仰がどれくらい近いのか全くわかりませんが、蝿を振り払うアーネストや白人達は、自然や動物からの叡智を享受することのない傲慢な存在だというメッセージと考えるほうが自分にはしっくりきますが、皆様はいかがでしょうか?

●3時間半という長尺ながらも全く長さを感じさせないテンポと濃厚な内容の作品でした。心地よいテンポ感というか、それぞれのシークエンスに必ず目を奪われる見せ場が用意されているので全くダレる感じが無いんですね。
特に殺しのシーンが、今までの作品よりも、陰惨です。素っ気無いというか、人間味がないというか、まるで「排除」「駆除」というようなかんじでオセージ族の命が軽々しく扱われていきます。
火薬の量を間違えで家ごと爆破→きれいな死体→と思ったら後頭部からのベロっ!は、個人的にはトラウマレベルのスラッシャーシーンになりました…
また、『グッドフェローズ』でもあった裁判での証言シーンも、今回はじっくりと時間を割いてその感情の機微を映しました。証言することの恐怖と、妻への愛を伝えるディカプリオの演技がじっくり見られて良かったですね。

●とにかく、スコセッシのスペシャルであるデ・ニーロとディカプリオの初競演というだけでも奇跡感はありますが、なんせスコセッシの最高傑作と言えるくらい面白い、まさにスペシャルな作品でした。ぜひぜひ、(長丁場なので膀胱をスッキリ空にして)映画館で挑んでください!(配信で観ようとすると絶対に途中で止めたり、翌日に回したりするので…)
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