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ベルベット・バズソー: 血塗られたギャラリー​のStroszekのネタバレレビュー・内容・結末

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このレビューはネタバレを含みます

2019年。

ヴェトリル・ディーズ(Vetril Dease)という無名画家の作品群を画商の野心的な助手が偶然発見したことから巻き起こる惨劇。

画商の助手ジョセフィーヌを演じるのはロンドン出身のザウェ・アシュトン。ブリティッシュアクセントがロサンゼルスのアートワールドで生き抜くエリート性の説明になっているように感じた(助手なのに家賃の高いロサンゼルスで広いマンション住まい+高価な家具=実家が裕福か、仕事でそれなりの報酬を得ている)。

ホラー映画とアート批評映画の中間くらいの印象で、どちらとしても生温い出来。生き残りの法則が単純すぎる。

死後すべての作品を処分することを望んでいたディーズの願いに反して金儲けしようとした画商や批評家は呪い殺される。

ディーズの作品を鑑賞したのち、自分なりのアートを追求する決意をしたアーティストは生き残る(現代アーティストのピアース(ジョン・マルコヴィッチ)とグラフィティ・ライターのダムリッシュ(デイヴィード・ディグス))。

田舎に帰りディーズの飼い猫の面倒を見ることにした受付係は生き残る。

唯一気が利いた殺し方だと思ったのは、ジョゼフィーヌがダムリッシュに「一生誰も見ない落書き(原語では"グラフィティ")描いてなさいよ!」と言った後、彼女自身が誰も目に止めないであろうグラフィティに飲み込まれてしまうシーン。

タイトルとなっているヴェルヴェット・バズソーは画商のロドラ(レネ・ルッソ)が昔アナ・ポリーという女性と組んでいたパンクバンドの名前。最終的に彼女にトドメを刺すのも首のバズソー(電動丸ノコ)のタトゥーである。なんだかカッコいいタイトルとオチのためだけにつけられたバンド名のようだが、もっと掘り下げて欲しかった文脈である。


ひとつだけ誤訳と思われる箇所があった。退役軍人病院の職員にモーフ(ジェイク・ギレンホール)がディーズのことを説明する場面。"He[Dease]'s become a prominent artist in the outsider school"が「外の世界で有名な画家になったんです」となっていたが、"outsider school"は美術の一流派で、「アウトサイダー・アート」(美術の正規教育を受けていない独学者や知的障害者が既成概念に囚われず自由に表現したアート)の意味だろう。

[追記]
これ、別に誤訳というわけではなくて、短い文字数で多くのことを伝えなければならない字幕の制限があったから美術の専門用語を避けただけかも。しかし「外の世界で」という訳だと、それこそ「アートワールド」の言葉から「外の世界」で流通する言葉への言い換えが咄嗟に思い浮かばないモーフの融通の利かなさのニュアンスが薄れている気がするんだよなあ。
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