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ハーモニカのCHEBUNBUNのレビュー・感想・評価

ハーモニカ(1974年製作の映画)
5.0
سونيو مقابل عملاق
(イランのジャイアンV.S.スネオ世紀のタイトルマッチ)

東京フィルメックスのアミール・ナデリ特集で初期作品『ハーモニカ』を観た。ナデリ監督が『タングスィール』と併せ26歳にして撮ったものの、『ハーモニカ』は1日で上映禁止に、『タングスィール』は2週間で上映禁止になった。革命の象徴として、イラン庶民に愛された作品の一本が『ハーモニカ』である。

本作は他の方も指摘している通りドラえもんだ。しかし過激なドラえもん、それもスネオとジャイアンの死闘を描いた作品だ。

いきなり、海辺での壮絶なイジメシーンから始まる。少年はジャイアン格のふとっちょに海へ引きずり降ろされ、周りの子どもや大人と一緒にゲラゲラ笑う。

そんなイジメられッ子はひょこんなことから、ハーモニカを貰う。物珍しいハーモニカを見せびらかす少年に子供たちは集まり、硬貨やナツメヤシ、ザクロを対価に20秒だけハーモニカを吹かせる商売を始める。

お前の物は俺の物、俺の物は俺の物

とどこかの国のジャイアンとは違い、イランのジャイアンは対価を払いハーモニカを吹く。ハーモニカの魅力に惹きこまれ、また対価を払う。それに漬け込んで、イジメられッ子は奴隷のように彼を扱うようになる。

炎上する言葉に「イジメられッ子にも理由がある」というのがあるが、流石に本作のイジメられッ子のスネオっぷりはど畜生過ぎてフォローし難い。それが絶妙なギャグになっている。唯一無二のハーモニカに群がる子ども達を見下し、「おら、おめぇら吹きたいだろう、あん?」と言わんばかりにわざとらしくハーモニカを吹く。貢物を「美味いぞ、さあ早く吹かないと時間切れだよ」と言わんばかりに貪り食う。煽りの酷さに抱腹絶倒となります。

しかし、段々とハーモニカが権威の象徴となり、ハーモニカを武器に横暴になっていく少年、暴走していく彼に笑えなくなってくる。映画の中では笑いに満ち溢れているが、これって結局権力を乱用する政治家と大差ありません。

娯楽性と社会派の塩梅を26歳にしてマスターするとは、アミール・ナデリ恐るべし!
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