はる

ザ・ライダーのはるのレビュー・感想・評価

ザ・ライダー(2017年製作の映画)
5.0
クロエ・ジャオの監督作だから一応観ておこうと軽い気持ちで鑑賞したのですが、途中何度も泣いてしまい観終わった後もズシンと余韻に浸っています。

主人公を演じたブレイディをはじめ、出演者が役者ではなく現地で実際に暮らす人々であるらしいのですが、一体どこまでが実話でどこからがフィクションなのか、画面に映る人々のそれがもはや芝居を超え、リアルそのものにしか見えない。その生き様の美しさに気がつけば夢中で、クロエ・ジャオという監督がいかに凄いかまざまざと見せつけられました。

カウボーイという馬の調教やロデオで生計を立てる人生を本作を観なければ想像もしなかったと思います。そこにあるのは命を賭けてでも掴みたい夢。大怪我から回復しても二度目はないと宣告されたブレイディに突きつけられた親友からの夢を諦めるなという言葉と彼が最期に下した決断。人生において夢を諦めるのも諦めないのも当人にとっては茨の道であり、あらゆる瞬間に選択を迫られて生きていかなければなりません。走れなくなった馬は安楽死されられるが、人間は怪我をしても病気になってもどんな状況になっても命ある限り生きていかなければならないというあのシーンには生きるという事の残酷さが詰まっており、息を呑みました。

人間と馬と広大な自然の美しい一瞬一瞬を逃すことなく収めきる監督の手腕。特にブレイディが馬に乗って駆けるシーンはあまりにも素晴らしく、台詞もないシーンなのにその美しさだけで涙が流れます。『エターナルズ』や『ノマドランド』も良かったんですが、本作は別格だと思います。文句のつけようのない大傑作です。
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