カラン

ノベンバーのカランのレビュー・感想・評価

ノベンバー(2017年製作の映画)
5.0
圧倒的なファンタジーと時空の超越。誰かがカルトとか言うから嫁を連れて行く説得が大変だったが、(爆)、ほとばしるポエジーはダントツであるし、たまたまだが、ハロウィーンにぴったりであった。イメフォで観たのだが、観終わってぶらぶらして一杯やった後で渋ツタに向かう時には、たしかに事故が起こりそうな人出であった。




冒頭、凍てつく雪原に狼を走らせ、白銀の世界でダンス。狼のあえぐ吐息、雪が飛び散る輝き、氷の溶解する音を撒き散らして映画館に躍動する生命を導入すると、、、

フェリーニは『甘い生活』の冒頭でイエス・キリストをヘリコプターで飛ばしてみせたが、ライナー・サルネ監督は鋏の使い魔を旋回させてヘリコプターにすることで、牛を空に飛ばしてみせるのである。

エストニアの寒村の貧民にとっての死者の日には、つまりハロウィーンには、白装束の死者が家族の家にやって来ては、飯を食べて、サウナに入りに来るらしい。ドーランに白衣の死者が画面に溢れて、疾走する狼のツートンの毛皮と瞳と唇、雪原と滲む泥、牛、白い死者等々、白黒の存在者がモノクロームの画面に、不思議な生命をもたらす。

実際、イエジー・ハスの『サラゴサ写本』のような意味不明な設定でありながら説明もそこそこに映画は突き進んで行くし、極端に省略の効いたカットが頻発するのだが、圧倒的なファンタジーの躍動感で何故?という問いを吹き飛ばす。というよりも映画は疑問に感じる前に答えてしまう。例えば、恋する男の心を掴んでいるドイツの夢遊病の令嬢を矢で殺害しようと屋敷の下で構えていた貧者の女が、殺害を断念すると同時に、屋敷の屋上で令嬢を背後から微笑みかけているのである。会話でもこのような極端な省略が何度か見られた。

入水というのは『ハムレット』のオフィーリアがそうなったように種々の作家を触発する。この映画では、氷の薄膜とその内奥のイメージを反復することで、類例のない圧倒的な不気味さと妖艶さで視聴者を水の世界に誘う。ジャン=ピエール・ジュネの『エイリアン4』や、ジョナサン・グレイザーの『アンダーザスキン』はもちろん、ソクーロフの『ファウスト』にも匹敵するかもしれない。ポスターにもなった水中振り向きショット(水泡の煌めきつき)を考慮すると、それ以上かもしれない。
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