映画『空白』レビュー時に、自分は"折り合いのつかなさ"を描いた映画が好物と書いたのだけれど、"周りからは否定されようと、その道でしか生きられない不器用な男"を描いた映画も好物。
そんな自分にとっては好物が2つ乗っかったような映画だった。
主人公の宝石商ハワードは、常に短絡的で目先の利益しか考えておらず、博打で儲けを得ようとする常に綱渡りの生き方。
その結果、アンカットの石を貸したプロバスケット選手KJや、借金の取り立て屋、家族からハワードへの怒りは累乗的に増していき、ますます事態は悪化していく。
そんな、視野の狭い主人公がとる行動が次から次へと次なる災いを招いてしまうストーリーテリングはさすがはサフデイ兄弟。
ただ、これまでのサフディ兄弟作品と比べるとプロットは今回綺麗に分かれている印象。
一幕目はエチオピアからブラックオパールを仕入れたハワードは競売にかけて大金を得ようとするが、その石の魅力に取り憑かれたプロバスケット選手KJと、彼の持つ指輪を担保に石を交換する。物語の導入部分で、この時点で各キャラがどういった人物像か、テキパキと紹介される。
二幕目は、即金欲しさにハワードはKJから担保として受け取ったはずの指輪を質に入れ、手に入れた大金でKJの出る試合に賭博をするはずが、取り立て屋に阻止され賭け金を失い、KJからは試合時に力を発揮するからといって石を返してもらえず、金策に焦るハワードの姿に妻からは見放され、さらには愛人の浮気現場に遭遇し、彼の立場は一気に窮地に、孤独に立たされる。
そして三幕目、やっと取り返した石を競売にかけるのだが…。
登場人物の多い作品ながら、各キャラの描き分けは端的にしっかり描かれ、それゆえ二幕目以降のハワードの堰を切ったように転げ落ちる凋落ぶりが凄い。
加えて本作は、主演を演じたアダム・サンドラーが素晴らしい。
コメディ俳優としての持ち合わせているユーモアがあるからこそ、底辺の落ちるところまで落ちたハワードが、映画後半で涙を流す場面でその愚かさにちょっと笑っちゃうんだけど、同時に同情もしてしまった。
この場面がなければぶっちゃけこれまでのサフディ兄弟の映画同様、短絡的で常に綱渡りな生き方をしている主人公にイライラしてしまっていただろうけど、この場面で一気に彼に一抹の魅力を醸し出す、これはアダム・サンドラーだからこそなせる場面でしょう。
そんなハワードの、この映画におけるラストは、サフディ兄弟らしい唐突な終わらせ方でもありながら、不器用なりに不器用にしか生きることのできない男の一瞬のキラメキを感じさせもする。
大根仁監督の『SCOOP!』は一般的には評価あまり高くない作品だけど、個人的にはあの福山雅治のラスト、六本木の夜が猛烈に刺激され、忘れがたい映画なんだけど、本作『アンカット・ダイヤモンド』のラストもまた、不器用な男のそうとしか生きられないラストに心が締め付けられてしまった。
私自身、就職して以降、映画好きで映画業界にいつかは…と思いながら別業界別職種で働いている。
そんな自分にとって、生きにくい世界でそれでもその世界でしか生きることのできない、世界と折り合いをつけられない不器用な男の話って、刺激されちゃうんだよなぁ。。
人を、選ぶ作品だけど、自分は大好きです!
サフディ兄弟、最高!