ノラネコの呑んで観るシネマ

サタデーナイト・チャーチ 夢を歌う場所のノラネコの呑んで観るシネマのレビュー・感想・評価

3.3
軍人だった父を亡くし、長男としての責任感と自分の性的なアイデンティティの間で葛藤を深める少年ユリシーズが、ある夜LGBTが集う「サタデー・チャーチ」と出会うミュージカル。
サタデー・チャーチとは、LGBT支援のためにボランティアが土曜日に教会を借りて運営するコミュニテイスペース。
ユリシーズは、ここでようやく素の自分でいられる居場所と、同じ悩みを抱え信頼できる仲間たちを得る。
悩める若者を救うのも教会なら、彼がゲイであることを激しく非難するおばさんもまた、熱心な教会の信者なのが面白い。
あらゆるものには二面性があるという訳か。
基本的にはユリシーズの家族が、彼の性的なアイデンティティを認めるまでのシンプルな話だが、正直これをミュージカルで作る必然性は全く感じなかったし、音楽映画としては中途半端だ。
ミュージカルシーンはどれも唐突で、楽曲はともかく映像的な魅力に乏しく、抵抗の魂の叫びとしては弱すぎる。
さらに主人公のユリシーズはほとんど変化せず、家族が心配して変わってゆく話なので、物語にオチた感が無い。
本来なら家族が認めてくれたことを受けて、ユリシーズ自身が変化し、クライマックスになだれ込むのがセオリーだが、描く前の終わっちゃうんだな。
全編で一番画的に魅力的なのが、彼がドラァグクイーンとしてデビューを飾るショットなんだけど、尻切れとんぼになっちゃう。
青春のイニシエイションを描く作品としては悪くない。
しかし、ぶっちゃけ映画自身がアイデンティティに迷っていて、焦点をボケさせるミュージカル要素は要らなかったのではないか。