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悪は存在しないのノラネコの呑んで観るシネマのレビュー・感想・評価

悪は存在しない(2023年製作の映画)
4.7
この驚くべきシンプルさよ。
山深い土地に静かに暮らす、便利屋の男と小学生の娘。
近くの森にグランピング場の開発計画が持ち上がり、説明会で明らかになった計画の杜撰さに住民は戸惑いを募らせるのだが、濱口竜介はイージーな対立関係は描かない。
本作の設定からは、都会と田舎とか、企業と個人、自然と人間などの分かりやすい対照性が透けて見えるが、結局そこにいるのは人間。
人間同士の関係は白黒二元論で語るのは不可能で、全てグレー。
立場を変えて眺めれば、明確な悪は存在しえない。
106分の上映時間の大半が、長めの会話か自然描写で占められているが、冒頭の4分間から始まって、誰の視点なのか困惑させるようなショットが多数。
石橋英子のスコアと合わせて印象的に使われているここに、観客が何を見るかが本作のキモだと思う。
ラストの不可解とも見える展開に関してたも、作者の中ではちゃんと筋を通してあるのだろう。
色々解釈したくなるものの、ここはあまり正解を求めるのも本末転倒な気がする。
個人的には人でないものの視点を意識したくなるが、それも含めてのグレーなのでは。
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