りっく

彼らは生きていた/ゼイ・シャル・ノット・グロウ・オールドのりっくのレビュー・感想・評価

4.5
まるで記録フィルムの1コマのような画角からワイドに拡がり、そして当時のモノクロ映像が鮮やかに色づいていく。遺されていたものを蘇らせることで浮かび上がってくるもの。本作を第一次世界大戦で戦った祖父に捧げたピータージャクソンの並々ならぬ覚悟と気の遠くなるような作業にまず感銘を受ける。

当時戦場にいた若者たち。彼らは参戦することにある種の居場所や存在意義を見出し、苦しい訓練にも耐える一方で、ドイツ軍と睨み合いを続ける塹壕戦になっても、笑顔が散見される。映像が色づくことによって勿論戦場の細部にわたるリアリティや残酷さが際立つ部分もある一方で、どこか青春の1ページを蘇らせるような仲間たちとの唯一無二の日常や時間さえ立ち上がってくるのだから面白い。

だが、終盤の白兵戦を迎える兵士たちの心境とその後に待ち受けるカオス。当時を経験した人々が感情的ではなく、むしろ淡々と当時の心情を語っているにもかかわらず、そしてその肉声と被せられる画も直接紐づいた光景ではなく、映像や静止画やスケッチの断片にもかかわらず、鳴り止まない銃声音を耳にしながら、観客も想像力を掻き立てられ、気づくとそのカオスの中に巻き込まれる。

だからこそ、感覚が麻痺している兵士たちと反して、安全な場所にいたはずの観客の足元も崩れていき、より恐怖が五感をダイレクトに刺激してくる感覚に陥る。前に進むしかない若者たちを阻む鉄格子の絶望的な厚みと、色付くことで顕になった錆具合の残酷さが特に印象に残る。

イギリス兵とドイツ兵。互いに国家に属している以上、それに従って戦っているものの、例えばイギリスの一括りにしているが様々な民族がおり、逆に敵として殺し合いをしていたドイツ兵だって、ヘルメットを脱げば自分たちと同じような庶民であり人間である。そんな個人の尊さを最大限立ち上がらせる傑作だ。
りっく

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