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影裏のみのネタバレレビュー・内容・結末

影裏(2020年製作の映画)
4.6

このレビューはネタバレを含みます

うっすら勘付かせるのが上手な映画。
最初の今野の生活のシーンとかでなんとなく性的な部分を匂わせてるように感じた、なんていうか、とても抽象的な言い方になってしまうんだけど、身体的な性のすぐそばにいる人間だとみせるのが上手いと思う。生っぽいっていうのかな。撮り方も、綾野剛も。綾野剛ひとりのシーンが特にこれ。とんでもない俳優さんですね。すごい。
ふらっと向こうから来て距離を詰める割に全然分からない人間の解像度が高いというか、こういうタイプって2種類いると思ってて、いろんなところで関わりがあるから誰か1人に執着せず、向こうのタイミングでつるんでくる人間と、この映画の日浅みたいな人間。最初は前者みたいな人なのかな、とか思ったけど、んー、言い方が難しいけどたぶんどこにも関わりを持ち続けられない人、かな。その人が誇っていたものは全て偽り。賞状を折り畳んでたのがすごく印象に残ってたんだけど、あれきっと偽物だからあんなふうに出来たんだね。全てを諦観してるような男。子どもの時の親の死は、1人の人間をそこまで至らしめるものなんだな、と思ったりした。目の前の全てが崩れ去る感覚。今野と日浅の違いはきっとそこだ。
最後、新しいパートナーが出来て2人で過ごしている今野と、変わらず1人でタバコを吸ってる日浅。陶酔してたのは今野の方だし、その思いを全て断ち切ったわけではないかもしれない(あの日浅の姿は本物?幻覚?たぶんどちらにも捉えられる)けど、前に進んでるのは今野の方。

日浅という人間、始めは観てる側もまあそういう人なんだと思って観てるから、急に会社辞めて就職して営業の成績で1位取ってる、なんて話を今野にしてるのを聞いて、今野はどう思ってるのかな、自分よりいつのまにかすごい人になってしまった、おんなじように働いてた人なのに、賞状なんてもらえる生活じゃなかったのに、って思ってるかなって思ってた。

ザクロのシーンが何気1番印象に残ってる。2人の違いが食べ方で明らか。日浅自分のザクロ食べればいいのに今野のを食べて見本見せてるのがよかった

今野が強引に押し倒したあと、それでも普通に接してたのが余計この人何考えてるんだろうって思って分からなくなったりした。
今野は日浅の何を見ていたんだろうね 何に魅せられていたんだろうね
ふらふらしてるように見えて、人が真面目に関わろうとする瞬間を掻い潜って結局いなくなってしまう男の。まあいつかどこかにふらっと消えてしまいそうな人が自分にとってそこで1番に仲良くなってくれた人ってなるとその背中を追いかけてしまうのは当然のことだと思った。

生きている証が、会社の契約の書類なのが良かったね。その人の筆跡ってやっぱり何かグッと来るものがある。
あと一口足りないんだ、って今野の家にきたシーン、あそこもすごく印象に残ってるし、今野に頼むまでタバコを5本吸い潰してるのが葛藤の時間が感じられてとても良い。あと、契約書に判子を押してる時に、「あとここも」って言われて「うん」って今野が言うここの「うん」がめっちゃよかった 本当に気にしてないよ、の「うん」だよあれは。まじ綾野剛っていうか今野秋一が生きている。ほんととんでもないな。

「知った気になんな お前が見てんのはほんの一瞬光が当たったとこだってこと 人を見る時はその裏っ側 影の一番濃いとこ見んだよ」って、きっと日浅自身のことだと思った。経歴詐称、携帯も持たずに自分の良いところなんていくらでも偽れるけど、自分の1番暗いくて淀んでるところは偽れない でも暗くて淀んでるところは周りの影と混ざって暗いところじゃ見えないんだよな、難しいよね。光に当たれば、見えたりするのかな。その光って人間だったりするよね。

焚き火のシーンの、「帰るんだよ」めちゃくちゃ自分に言い聞かせてるように聞こえた。

焚き火から帰ってきた後、なぜかすごく煙たい匂いがした気がした

この映画、光がとてもよかった 
あとは服の色も 
綾野剛の目でいろんなことを語る魅せ方めっちゃ好きだし、松田龍平の、何も瞳に写らせないようにする瞬間と、物を見た時に見透かしていそうな瞬間がとても良いと思った。
み