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人間失格 太宰治と3人の女たちのchiyoのレビュー・感想・評価

3.9
しっかり自分の演出の色を持ってらっしゃる蜷川実花監督。女性監督としてすごく応援しています。
さくらんの時も、私の大好きな椎名林檎さんの曲を使って世界観を作り出した監督の感性が好きだったのですが、今回の人間失格も音楽、色、演出がぴったりハマっていてすごく良かったし好みでした。
やっぱり蜷川実花さんといえば鮮やかな花だけど、くどくない花の使い方が美しくて儚くて、とてもマッチしていたし世界観がしっかり構築されていた。新しい蜷川実花の太宰治を生み出せていた。
鮮やかな色の使い方、明らかに誇張した美しすぎる表現も、蜷川ワールドだからこそ、っていう良さがあって本当に素晴らしかった。

小栗旬さんが演じる太宰治が良すぎる。前髪が目にかかる具合、歩き方、煙草の吸い方に酒の飲み方、女の顎を掴んで目を合わせる仕草。絶妙な色気と狂気を感じる。足運びやマッチの火を消す動作の緩急が凄まじくいい。視線の持って行き方、セリフを話す唇の動きに、唇の端で作る笑み。果ては姿勢やポーズの作り方まで観客の目を惹きつける。
3人の女性達もそれぞれ全員とても魅力的。それぞれのカラーを持ってしっかりと花の色や服の色で感情や性格を表しているのが蜷川さんらしいと感じました。

わかりやすく青のインクを塗りたくってからの、遺書を見た後の妻の感情。服は青色、庭の花も青色。あのインクにまみれた瞬間から妻の気持ちは晴れていた。わかりやすいけど好きな演出。

芸の肥やしには女遊びとか、いい作品を作るには遊びが必要だなんて言うけど、結局は作品のために自分を追い込んで追い込んだら狂って、結局生きるか死ぬかなんてどうでもよくなるんだろうな。
きちんと今回の映画では、ただのクズの女たらしというよりも、作品を作るためにおかしくなっていく様が描かれていて好みだった。
誰も拒まない、寄ってくる人間には無償の愛情を。愛に金に酒に遊びに、という男なのか、はたまた作品に命をかける男なのか。
蜷川実花監督が描く太宰の魅力が詰まっている作品でした。


ラスト、太宰が川の中でハッと目を見開くのは、人生なんかどうでもいい、死にたいと言いながらもあの一瞬に作品の一節が想い浮かんだからなんだろうな、と思った。
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