ずどこんちょ

ジョジョ・ラビットのずどこんちょのレビュー・感想・評価

ジョジョ・ラビット(2019年製作の映画)
4.0
2020年のアカデミー脚色賞を見事受賞した話題作。ようやく見れました!
頭の中にヒトラーのイマジナリーフレンドがいるほどナチスに傾倒する10歳の少年が、実は自宅で匿われていたユダヤ人の女の子に出会い、戸惑い、思いを変えていきます。
頭の中のヒトラーと口論したり、ヒトラーに応援されたり、予告編を見た時から独特な雰囲気に惹かれてました。

ヒトラー政権が正しいとはまったく思っていませんが、事実、ヒトラーがカリスマ的指導者だったことは間違いないでしょう。
それは冒頭の記録映画を利用したオープニングから感じさせられました。
あれだけ大群の国民を心酔させ、挨拶代わりに名前を連呼させる指導者が歴史上いたでしょうか。まるで世界的アイドルが来日した時のような若い女性が叫ぶ姿。巧みなプロパガンダで大衆を扇動したカリスマの采配がいかに凄まじかったか。
実際、ナチス・ドイツが仕掛けた非人道的な歴史を知る現代人から見ても、あの記録映画の映像は「すごい」と思わせられてしまいます。

そんな国で、しかも戦時下の偏った思考が横行している時代にナチス・ドイツに都合の良い教育を受けた子供たちが戦争に巻き込まれていくのは必定。まだ10歳の純粋なジョジョも骨の髄までナチズムに染まってしまっています。頭の中に常にヒトラー総帥がいて、困った時に話し合っちゃうぐらいです。
まぁ、頭の中のヒトラーは陽気過ぎて、実際のイメージとはかけ離れてちょっとジョジョの理想寄りに偏っていますが。

ちなみに、ジョジョの唯一のリアル友達のヨーキーはとても良い味出してました。緊張感が高まる時や悲しい時に不意に現れて和ませてくれる太っちょなヨーキー。ジョジョみたいに頭の中にヒトラーは飼ってないらしく、柔軟性があって寄り添ってくれる誠実さに癒されます。

ところが、本当はジョジョが心優しくてまっすぐな少年であることは周りの人々が知っていました。
頼り甲斐のあるお母さんも、ジョジョを最後まで守ってくれた大尉も、そして誰にも言えない交流を重ねていくユダヤ人のエルサも。
多分知らなかったのはジョジョだけです。ウサギも殺せないジョジョがユダヤ人を見つけて殺せるはずもないのです。
頭の中の陽気なヒトラーがひたすら彼をナチズムに引っ張ってきますが、ナチス・ドイツに染まりきっていなかった周囲の人々の語りかけで、ジョジョの中に眠っていた本当の自分が目覚めていきます。

終盤にかけて怒涛の喪失体験が続き、切なくて胸が苦しくなります。ジョジョの心の拠り所が次々と奪われていく。
絶望と苦しみを味わった戦争が終わった時、甘えん坊で頼りなかった少年が大人になった目をしていたことに驚きました。
頭の中にも、家族としても、信じていた存在がいなくなったことがあの小さな少年にとってどれほど大きな心の傷となったか。それでも彼は一人で立ち上がって、戦後の日常を生きていきます。
ジョジョ役の少年のすごい演技力です。

「お母さんから結んでもらっていた靴紐」が、いつしか「愛する人のために結ぶ靴紐」に。靴紐を成長の印として見せる伏線が可愛くて素敵でした。