SANKOU

ジョジョ・ラビットのSANKOUのネタバレレビュー・内容・結末

ジョジョ・ラビット(2019年製作の映画)
4.6

このレビューはネタバレを含みます

ナチスドイツというかなりデリケートな題材を、前半は大胆にもコメディ風に描いており、これがどのような展開になるのか予測が出来なかった。
主人公の少年ジョジョは未だに靴紐を結べない10歳半の少年で、ナチスに憧れてヒトラーユーゲントに入隊、心の中の友達は何とあのアドルフ・ヒトラーなのだからかなりヤバイ。
ある日ジョジョはウサギを殺せなかったことからジョジョラビットというあだ名をつけられ臆病者扱いされてしまう。
心の友達アドルフに励まされながら、汚名を挽回しようと奮闘するジョジョだが、誤って投げた手榴弾が足元に落ちて大怪我をしてしまう。
怪我の巧妙なのかは分からないが、次々と仲間が戦地に赴く中、ジョジョは大好きな母親と暮らし、ビラ配りなどユーゲントとしての仕事をこなしていく。
スカーレット・ヨハンソン演じる母親がとても魅力的で、実は心の中ではナチスに傾倒する息子を快く思っていないのだが、親身に息子に接し深く愛情を注いでいる。
顔に煤をつけてジョジョの前で父親を演じる姿と、その後にダンスを踊るシーンはとても印象的だった。
そして母親がジョジョに隠していた秘密、ユダヤ人の娘エルサを屋根裏部屋に匿っていたことがジョジョに分かってから物語は大きく動き出す。
コメディタッチで描かれていた前半とは変わって、広場に吊るされた死体のシーンから次第にこの映画は観る者に牙を剥き出す。
心の芯までナチスに傾倒していたジョジョにとってはエルサの登場は由々しき事態だが、もし彼がエルサの存在をばらせば母親と自分も協力者として処刑されてしまうことから、彼はアドルフと相談して何とか彼女と交渉をしようと試みる。
しかし、彼女とやり取りを重ねるうちに、ジョジョは聞いていたユダヤ人の姿と違う彼女に惹かれていく。
ナチスの為に忠誠を尽くすことと、エルサを助けたいと思うことの矛盾の中で悩むジョジョ。エルサに惹かれていくのと対照的に、心の中のアドルフは邪悪な存在としてジョジョを追い詰めようとする。
秘密警察に家宅捜査をされるシーンの緊張感が凄かったのと、ユダヤ人だけでなく、敵対する国の人種は全て人間ではない野蛮なものと捉える彼らの考えが短絡的で、だからこそとても危険なものとして映った。
「ドイツ人は決して洗脳されてはいけない」とあたかもユダヤ人が魔術を使うかのような台詞があるが、彼らこそ同じドイツ人までも洗脳しようとしたのであり、心からナチスを信じて疑わなかったジョジョだが、エルサとの交流でその洗脳から少しずつ解かれて人間らしさを取り戻していくように感じた。
ショッキングなシーンもある映画だったが、ラストは心が洗われるような名シーンだった。
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