ヨッシー

名探偵コナン 紺青の拳のヨッシーのレビュー・感想・評価

名探偵コナン 紺青の拳(2019年製作の映画)
2.3
『全ての客層を取り込もうとして欲張りすぎ』

『週刊少年サンデー』で連載中の大人気漫画『名探偵コナン』の劇場版シリーズ第23弾。

シリーズ初の海外であるシンガポールを舞台に伝説の宝石『紺青のフィスト』を巡る陰謀に怪盗キット、400戦無敗の男・京極誠、そしてキットに連れてこられた少年・アーサー・平井が立ち向かう。

監督は長編映画初監督となる永岡智佳。

毎年春恒例の劇場版コナン最新作。17作目の『絶海の探偵』以降(『ルパン三世VS名探偵コナン THE MOVIE』を除けば)何故か興行収入記録を毎年更新し続けるメガヒットシリーズで逆にこの記録を止めてはいけないというプレッシャーがあるんだと思う。

去年の『ゼロの執行人』は監督が立川譲に変わった影響でちょっと小難しい大人向けの作品になっていたが、今回も監督が変わり過去のコナン映画で演出を手がけていた永岡智佳が引き継いだ事で『ゼロの執行人』とは逆の子供にも分かりやすい作品を目指したんじゃないかな?
さらに男性客向けにバトル要素、女性向けに恋愛要素とあらゆる客層が楽しめる作品にしたかったんだとは思う。

ただ、今回はそうやってあらゆる要素を欲張って詰め込んだ結果、どの要素もやや半端な構成になってしまったように感じた。
僕自身事前の期待値がかなり高かったこともあって、そのハードルを越えてくるようなところは何もなかった。

例えば、今回初めてメインキャラとして登場する京極誠は、確かに原作者が「登場する漫画を間違えてる」というほどの人外っぷりを発揮してるし、その点は笑わせてもらったけど、肝心のメインの事件にはあまり深く関わらず、とりあえずそこにいてよく分かんないけど巻き込まれただけの存在になっているから、せっかくメインキャラとして登場してるのに脇役感が強い。
ストーリーへの絡ませ方もちょっと強引な感じもするし、肝心の怪盗キッドとの対峙が作中一回だけなのもちょっとがっかり😞

さらに彼が中盤のある出来事をきっかけに、今回の悪役であるレオン・ローから渡されたミサンガが切れるまで拳を振るうことを封印する展開がるんだけど、これは肉体的には最強でも精神的にはまだ未熟な京極が自身の迷いをミサンガと共に断ち切って、園子を守るために戦うという成長展開になるかと思いきや、彼がピンチの時にキッドがトランプ銃で物理的にミサンガを切った事がきっかけで戦い出すから、全然彼の成長にはなっていない。
一応、劇場版はあくまで本編の番外編でしかないから、登場人物に対して変化や成長を与えるような事が出来ない。だから京極を成長させるのはちょっと禁じ手ではあるんだけど、だったらこんな展開入れなきゃいいじゃん。
せっかく初めてメインキャラとして登場したのに、彼のキャラクターの魅力が引き出されていたとは言い難い。

それならキッドとコナンというお馴染みの主人公達はどうかと言うと、今回はじめての海外が舞台の話なのに、この2人がわざわざシンガポールまで来る理由が「キッドを呼べば敵であるアイツの邪魔をしてくれると思った」とか「なんかヤバそうな気がするからとりあえず連れてきた」とか確固たる計画や目的もなく、なんとなくとかいくらなんでも雑すぎる。
この2人がいなければ始まらないとは言え、2人を話しに絡ませる方法が強引。

そもそも、以前キッドが登場した『業火の向日葵』でも思った事だけど、キッドとコナンはあくまで敵対関係であって、最初からこの2人が完全に味方関係なのはどうかと思う。最近のキッドはコナンを頼りすぎてて、彼が1人で何かをやり遂げようとする気を感じられない。キッドだったらコナンを利用して出し抜こうとするだろうし、味方になるならその中でもお互いを出し抜こうとする駆け引きが欲しい。
それに今回のキッドの行動はかなり行き当たりばったり感が強い。キッドはもっと計画的に行動してほしいし、その上で予想外の危機をその場に機転で乗り越えるとかにして欲しい。

肝心のコナンに関しても、今回は『アーサー・平井』という別人として行動してるのに、特にその事が効果的に使われたと感じるところはなく、別に普通にコナンとして原作と同じ手段出来たことにしても問題ない気がする。
それに、あれだけ見た目が似てて、本人も隠す気あるのか?と思うぐらいコナンっぽい行動を何度もしてるのに蘭達が疑問に思わないのは不自然...というのはコナンでは毎度のことだからまあいいかww
だとしても、せっかくなんだから正体がバレるかバレないかハラハラ感は少しぐらい出してよ。

ストーリーに関しては、ミステリーなのにツッコミどころ満載のはまあいつのも事なんでそこまで気にはしないけど、前述した通り、肝心の主役3人の話への絡ませ方が強引かつ雑なのはすごく気になるし、今回の犯人のキャラもかなり微妙。

犯人の動機や目的が事件のスケールのでかさに比べてショボかったりしょうもなかったりするのはいつものことだけど、今回のメインの悪役であるレオン・ローの目的がかなりふわっとしてて、最終的に彼が街を破壊した後にどうするのか明確なビジョンが見えないから、彼の悪役としてのキャラもちょっと陳腐なものに見える。

それと、レオンとは別に事件の裏で暗躍していた黒幕的な存在も、「実はこうでした」という後出しジャンケンでの説明ばかりでミステリーとしてはイマイチだし、黒幕にしてはあっさり倒され、イマイチ事態を動かしている感じがしないから存在感も薄い。
そもそも、黒幕がいることは作中で何度か暗示されるんだけど、あのキャラが黒幕なのはバレバレな上、ミスリードなのかな?と思ったけど、他に選択肢がないからやっぱりアイツしかいないじゃんってことになるから、それはミステリーとしてはレベルが低いんじゃないの?

しかも、終盤はレオン、黒幕、海賊達と別々の目的を持つ悪役達がメインの悪役のポジションをコロコロ変えていくせいで話の流れがブレブレで飲み込みずらい。『パイレーツ・オブ・カリビアン』じゃないんだから犯人側のゴタゴタとかどうでもいいよ。

アクションに関しては、もちろん劇場版らしく作画は良いし、派手でそれなりには見所なんだけど、最終的にクライマックスの見せ場が蘭や小五郎、キッド、京極といった超人達の単純な戦闘能力で勝つのはコナンとしてはどうなの?
個人的にコナン映画のアクションというのは、「いやいや、ありえねぇよww」とツッコミを入れたくなるぐらいぶっ飛んだ、でもコナン達の超人っぷりと、道具や頭を使ったバランスがうまく取れたものだと思っていて、前作『ゼロの執行人』なら目標まで以下にたどり着くかを考え、安室さんの超人的ドライビングテクニックとコナンの必殺シュートで危機を乗り越える(かなりぶっ飛んだ)アツく頭脳的なアクションだったんだけど、今回はあんまり頭を使った感じはしない。京極は完全にバトルキャラだからいいけど、せめてキッドとコナンは少しぐらいは頭使って欲しい。
あと、どうせマリーナベイサンズをぶっ壊すぐらいやるなら、アレが落ちてきて下にいる人たちが危ないから、落下軌道をずらして海に落とすぐらいはやってよ。そこまでやってこそコナン映画でしょ。今回はそういう人命救助的なアクションが全くないのもちょっと残念。
終盤の海賊との銃撃戦なんかコナンというよりは『シティハンター』を見てる気分だった。

ちょっと不満ばかりになっちゃったけど、良いところももちろんたくさんある。
監督が演出家だけあって、演出面では光る部分はたくさんある。
例えば、中盤のコナンとキッドの推理タイムをちゃんと絵的にも楽しめるようにしてる。
シリーズ初の女性監督だからかラブロマンス要素も強く、新一と蘭、京極と園子のイチャイチャは原作ファンや恋愛ものが好きな女性客にはたまらないと思う。
バトルもコナン映画としてどうかは別にすれば悪くない。

ただ、個人的に本作は万人向けに欲張っていろんな要素を詰め込みすぎて、かなり強引で歪なバランスになってしまったように感じたし、特にミステリーとして、コナン映画としてはかなり物足りない作品だった。
老若男女あらゆる客層を取り込もうとして、ウケそうな要素をたくさん詰め込んだはいいが、それを1本の映画としてバランスよくまとめ上げる力が足りなかったと言わざるを得ない。

でも、ここまで物足りなく感じたのは事前の期待値が高く。何よりコナン映画にはそれぐらいハードルが高いものを求めても良いからだと思う。これが『ポケモン』や『妖怪ウォッチ』ならここまで言わないと思う。そこまで期待してないから。

おそらく今年もかなりの大ヒットにはなるだろうし、また記録を更新してもおかしくはないかな。個人的にはコナン映画ばかりがヒットする今の日本の状況を良いとはあまり思わないけど。
ヨッシー

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