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天気の子のhatraのネタバレレビュー・内容・結末

天気の子(2019年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

全体的な演出は『君の名は。』より劣った印象だが、それでも終盤挿入歌のシークエンスはお見事。
また脚本と、「天気」が「景気」のメタファーなっている効果は秀逸。
雨が貧困の象徴なのはあらゆるシーンから見て明らかだ。

前提として『君の名は。』と『天気の子』はどちらも一幕目で「少女の祈りで魔法がかかる」シンデレラストーリーである。
しかし『君の名は。』での「都会のイケメン男子に生まれ変わりたい」という祈りと、
『天気の子』での「母ともう一度晴天の下を歩きたい」という祈りには明確な差がある。
観客はすぐに今作を「普通」を求める物語なのだと気付く。

また呑気なボーイミーツガールとは違い、複雑な少年と少女は互いに多くを語らない。
各々の願望は「居場所が欲しい」「弟と一緒にいたい」「姉に青春をさせたい」「娘に会いたい」「就職したい」などささやかなものばかり。
比較的裕福な人物を軸にした『君の名は。』とは対照的だ。
この慎ましさによって『天気の子』は「私たちの物語」になっていく。

ラストシーン、雨に沈んだ東京はまるで現実世界の行く末の様。
だが聡明な登場人物は「人間はそもそも常に大きな流れの中(狂った世界)で生きている」と悲観することはない。きっとそれは劇中の気象だったり、現実の経済にも当てはまることなのだろう。
そして最終的に物語は「止まない雨の中、たまに訪れる雲の晴れ間で人々は幸福を享受できる」と教えてくれる。

今作は、自己犠牲を否定し自身の手で幸せを握り締めた帆高の「大丈夫」という月並みな言葉で締め括られるわけだが、この題材でこれ以上相応しく頼もしいセリフは無いだろう。
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