しゅんまつもと

天気の子のしゅんまつもとのレビュー・感想・評価

天気の子(2019年製作の映画)
2.9
「世の中のみんなが欲するものよりも、僕がほしいもの、君を選ぶ」という作品内で提示される主張は『君の名は。』の次に『天気の子』を作る新海誠の姿勢そのものだったと思う。スタジオポノック1作目の『メアリと魔女の花』における「魔法なんていらない!」と同じような。もちろん、その意気や良し!と言いたい気持ちもあるけどいかんせんその意気に作品の完成度が追いついていない。

それどころか、新しいものを作り出しているつもりが、いつ間にか『君の名は。』の幻影さえ追ってしまっているように感じた。そうじゃなきゃあんな無意味なカメオ的なもの必要あります?ストーリーに絡むならまだしも。

とにかく人が生きていない。話が進むように人が動いているだけで、やっぱりそれは物語とは言えないし、映画にもならない。独白も多すぎる。朗読か。映像で伝わるよ。
帆高が故郷を飛び出した理由はなんなのか、明言や説明なんていらないけど、それが透けて見えるようなものが一切ない。拾った拳銃とそれを放つことが、その行動以上の意味を一切成していないのもキツい。貧困児童を設定に扱いながら、それに対する回答もない。それならそんな設定いらない。須賀さんと帆高を結びつけるものは?夏美は自分を見つめ直せた?

クライマックスに向けては『天空の城ラピュタ』『クレヨンしんちゃん オトナ帝国の逆襲』『千と千尋の神隠し』など日本アニメの名作を感じさせるモチーフが連打され、そこには自身の越えるべき壁としても存在する『君の名は。』ものしかかる。しかし、この『天気の子』にはそれらを支えられるだけの物語としての強度がない。すると映画は崩れてしまう。アニメーションとしていくら優秀であっても、語弊を恐れず言うならそれはやはり「絵」なのだと思う。

しかし、この映画が辿り着く結末そのものに関しては割と支持したい気持ちがある。「世界か、君か」その選択の果てに広がる景色の意図しない美しさ。そこでエンドロール、くらい突き放してもよかったのにと思ってしまった。