Yoshishun

2分の1の魔法のYoshishunのネタバレレビュー・内容・結末

2分の1の魔法(2020年製作の映画)
3.7

このレビューはネタバレを含みます

ピクサーといえば、昨年の『トイ・ストーリー4』の賛否両論が記憶に新しい。まさに積み上げたものをぶっ壊して、身に着けたものを取っ払った内容で前作までのシリーズファンの多くを大激怒させてしまった。しかし個人的には今に相応しく、また今まであやふやにされていたテーマについても言及する攻めの内容は好印象を持てた。そんな大問題作"『トイ・ストーリー4』のピクサーが贈る"とか堂々と宣伝していたのが、ピクサー第22作目となる『2分の1の魔法』。観る予定はなかったが、ハードルを下げつつも観てきた。
なお、ストーリーについては割愛させていただく。

まず、ピクサーの前作『トイ・ストーリー4』が攻めとすれば、本作はまさに守りに入ったような作品である。タイトル通り、世界から魔法が半分くらい消えてしまった世界で、ある兄弟が亡き父を甦らせようと奮闘するという冒険アドベンチャーである。冒険の過程には様々な試練が待ち受け、RPG的ストーリーが楽しめる。高速道路でのカーチェイス、崖渡りのシーンがアニメならではの臨場感を味わえる屈指の名シーンである。

また、クライマックスは兄弟版アナ雪とも捉えられる展開であり、弟イアンが兄バリーに父を会わせるために奮闘する姿は、冒頭からのイアンの成長を感じとれる。あんなに悩み、下ばかり向いていた少年が、ラストに近づくにつれ前を見て困難に立ち向かっているのが観てるこちら側としても誇らしく思えてしまう。

そしてピクサーといえば、やはり化物級のCGによる圧倒的映像美に尽きる。これさえクリアしていれば、最低限の満足度は得られたも同然だ。冒頭の草原に始まる自然の描写は過去のピクサー作品と比較してもその繊細さに度肝を抜かれる。特に水、さらにいえば川の描写はほぼ実写である。

本作は見所も比較的多く、またピクサー安定のハイクオリティな映像美に溢れているので文句なしの作品と云いたいところではある。しかし本作には勢いでうやむやにされてしまった部分もあり、ピクサーにしてはその詰めの甘さがかなり気になった。

まず、魔法についてである。冒頭で世界はかつて魔法に溢れていたことが語られるも、魔法そのものを扱える者が限られることを理由に、人々は科学を求めるようになった。科学が人々の生活を便利にしてきたことは確かだが、本作で魔法が廃れていった根拠にするにはさすがに無理がある。そもそも科学自体も実用化するのは楽ではないし、終いには「なんなかんやで魔法は消えました」と説明するだけである。また、魔法を扱える素質そのものも曖昧で何も説明されていない。イアンが扱えるから家系が関係しているかと思いきや、バリーや母は使えないから説明がつかないのである。もし本当に魔法を扱える者はランダムなら、劇中でもそれとなく魔法を扱えるものを示していても良かったのではないかと思う。

また、イアンとバリーの確執についてもその解決の仕方があまりに雑すぎる。言ってしまえば、"踊って嫌なことを忘れる"だけである。たとえ、あの一見楽しそうなダンスシーンも、ダンスや冒険そのものが終わればまた兄弟間での確執そのものも元に戻ってしまうのではないか。

また、最近のディズニー作品に多いのが日本語表記についてである。イアンのやることリストをまとめたメモ帳を見れば一目瞭然だが、イアン自身で書いたというより、印字にしかみえないのである。これは本作に限った話ではないが、フォントや書式、さらには行間を統一してしまうあまり、誰かが直接書いた文字という感じが全くしないのである。

とまあ、色々言ってきたが、本作には勿論良いところも沢山ある。ただ完成度についてはピクサーに求めるレベルには残念ながら達していない。非常に惜しい作品。
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