mさん

ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネスのmさんのネタバレレビュー・内容・結末

2.9

このレビューはネタバレを含みます

しっかりとワンダを悪役に振り切って描いていたのが驚き。カマータージでの容赦ない惨殺。ワンダのセリフひとつひとつにやるせなさを覚える。「あなたがルールを破ればヒーロー、私は悪人。それって不公平じゃない?」という台詞が今のワンダの全てを表してる。
私もルールを破って良いし、
魔女と恐れられててヒーローという肩書きすら意味をなさなくなった今、そもそもパワーを放棄して普通の生活を求めているというヒーローの悩みを体現してる。ワンダは完全にダークサイドに落ちたけど、その対になる存在としてドクター・ストレンジがいる。彼もまた今作では普通の生活に対する憧れがあるし、マルチバースで悪に落ちたドクターもいたりして、ドクターストレンジは悪におちずにヒーローとして生きていけるのか?というベースの物語がある。

サムライミさんはヒーローとしての苦悩について描いてたし、すごく合ってると思う。正義か悪かをぐらつかせる構成としてワンダもマルチバースの闇落ちドクターもこの物語を語る上で適正。

なんだけどなぜかすんなり入ってこない。ここまで理屈が綺麗なのに、どうしても色々なノイズが気になってしまう。それは結局やりたい物語を先行させて、新しい要素を出して、過去作、ひいてはMCUの要素を蔑ろにしてるからだと思う。

まずワンダがここまで闇落ちしてしまう展開はやっぱり見てて悲しいし、そもそも元々正義だったが、悪の道に落ちてしまうって言う役柄はドクター・ストレンジなら「モルド」というまたとない適役がいるのに、今作では雑な扱い方をされてしまって、モルドが前作で続編に出る感じがあったからとりあえず出しました感が凄い。

アメリカの存在もポッと出で出てきてて、たしかに別のユニバースから来たんだから、ポッと出でいいのかもしれないけど、今までのMCUの世界観の設定を少しでも絡めることができなかったのかと思う。ガンマ線とかウィブラニウムとかサノスの指パッチンでとか、そういう他のMCUから脈絡と繋がってる物語感をもっと出して欲しかった。やりたいこと先行でそういう過去作を見返す時間がなかったのかなと思ってしまう。パンフレットを読むと3週間で書き上げたと言ってて大変だったんだなと同情してしまうけど。

あと残念すぎたのはイルミナティのメンバーの扱い。さまざまなMCUの世界を横断すると言っておきながら、語ろうとしてる話にこの要素があまり必要ないので、このサプライズがただのサプライズになってしまった感覚。あと偉大なヒーローを秒で殺してしまうのもワンダの恐ろしさを出すための使い捨てみたいな用途で好きになれなかった。あなたが愛したXMENのチャールズとは別のユニバースだから何をやってもいいというのはファンを少し蔑ろにしてる気がする。
マルチユニバースで過去のキャラクターを出す場合そのキャラへのリスペクトが前提にあるはずなのに、今回は全くそれが感じられなかった。
マルチユニバースを「とりあえず好き勝手やっていい舞台」として考えてて、もし観客に受け入れなかったらまた別のユニバースからキャラを引っ張ってくればいいというように軽く捉えてる気がしてしまった。スパイダーマンノーウェイホームを見た直後だからこそ凄い残念だった。
mさん

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